ご報告が遅くなりましたが、先週月曜にマドリードの「ラ・ラティーナ劇場」で開催された「MUCHO ARTE(ムーチョ・アルテ)」公演はお陰様で無事終了しました!応援して下さいました皆様、誠にありがとうございました!!!
公演に関わったのはたったの2日間、公演前日のリハーサルと(詳細は前回のブログ)と本番当日の2日間でしたが、素晴らしいアーティストのみなさん、スタッフに囲まれて本当に幸せ、夢のようでした。そして本当に本当に勉強させて頂きました。10年分くらいの勉強。
舞台の上だけでない、サウンドチェックの時のトマシート、楽屋でのヘマ・モネオ、一緒にご飯を食べてフラメンコ談義をしたカレーテ・デ・マラガ。アントニオ・カナーレスもあらゆる瞬間で異なった光を放っていました。カナレースのゲネプロは見られなくて残念だったけど、カレーテとヘマ・モネオのリハ、なんだか私なんかと全然違ってすごかった。やっぱり格が違うんだなあ。
どんなに忙しくても、私のことを気遣い、いつも声をかけてくれたティト・ロサーダさん、とそのファミリーの皆さん、本当に優しい素晴らしいご家族でした。
舞台監督さんとしたアルテ談義も忘れない。たくさんのことを教えて頂きました。
本当にありがとうございました。
たくさんのお客様にお越し頂き、お喜びの声をたくさん頂きました。本当に嬉しかった!でもその反面、本当に私が踊ったのかなあって、それでも信じられないような・・・本当は夢を見ているのではないか、次の日朝起きたら実はマドリードなんかには行ってなくて、セビージャの自分の家にいるんじゃないか、隣で夫のアントニオがぐーぐーイビキかいて寝てるんじゃないかとか、そんなことを思っていました。笑
そうだ、ティエントの話。
ティエントy タンゴを踊るように本番数日前に言われて必死に振付して練習してたのですが(詳細は前回のブログにて)、なんと、アレグリアスを踊るはずだったファルキートが急遽出演しないことが本番当日に判明、その結果、私がアレグリアスを踊ることに!!!
やったー!!!
それをティトさんから言われた時、花火が上がりましたよー!!!
アレグリアスだったら私の十八番ですからね、いつでもどこでも誰とでも、即興でドンと来い!!!です。
楽しむが勝ち!!!
と言うわけで踊らせて頂きましたアレグリアス。
その時のビデオを「deflamenco.com」がYoutubeにアップして下さいました。是非ご覧下さい!
実はこの公演、ただのフラメンコ公演ではなく、ちょっと演劇も混ざっているんです。私も少し演技をしたのですが、その趣旨により、フラメンコの衣装ではなく普段着で踊るという設定。だから髪の毛もモニョ(フラメンコ舞踊の伝統的な髪の毛のまとめ方)ではなく、普通にゴムでまとめているだけなんです。※念のためのご説明。生徒さんにはいつも必ずモニョを結うように言っているので(笑)
踊りの方はこの動画を見て、思い出しました(笑)。元々短めに踊るという設定だったので普段踊っている部分をカットして踊るつもりだったのですが、本番ではゲネプロの時に合わせた時よりも前にブレリアの歌が入ってしまったのでした。うーん・・・そうするとそのまま引っ込むと相当短い踊りになってちゃうよね、とか思ってたらファルセータが入ってきたり、その後どうしよっかな、ええい、エスコビージャ入れちゃえ!とか、あ、そうだ、「最後にスビーダを入れろ」って言われてたんだっけとか思い出して入れてみたり、そしたらはけ歌が入ってきて、お、どうやって引っ込もうか、と考えてたり、その瞬間瞬間の記憶がまざまざと蘇ってきたのでした。
不思議です。踊り終わった時はどう踊ったのかあまり覚えていないのだけど、でもこうして動画を改めてみると、踊っている時にちゃんと考えてはいるんだな(笑)。そこが不思議。客観的に見るとやはり、ああすればよかったとか、こうすればよかったとかという気持ちも湧いてくるのだけど、その瞬間瞬間で自分のアレグリアスが生まれるという踊り方は自分らしくていいんじゃないかな?そんな気がしました。ムシコスの皆さん、ついて来てくれてありがとう。
その後のヘマ・モネオのソレア・ポル・ブレリアはすごかった。飛ぶ鳥落とす勢いのヘマ。エンサージョでは本人が踊るというよりも、ムシコス達に自分がどういう音やソニケーテを出すのか徹底的に教えるような感じだったけど、本番ではやはり彼女の踊り。Intención(インテンシオン)という言葉があるけれど、ただ踊るんじゃなくて、そのIntenciónがものすごく強くて深い。ああ、私に足りないのはそれだ、って思った。
カレーテ・デ・マラガはタラント。御80歳は過ぎていらっしゃるという、でもバリバリ現役の踊り手。この方は存在自体がアルテ。装いから帽子のかぶり方から、バストンから、ただ立っているだけで、座っているだけでアルテ。そして動いたらもっとアルテ。サパテアードのソニケーテもアルテ。アルテの塊。アルテそのもの。
カレーテとは宿泊先のホテルが一緒だったので、公演翌日の朝ホテルの朝食をご一緒させて頂くというありがたき幸運に恵まれました。その時に自分のエンサージョの仕方とカレーテのエンサージョの仕方が全然違うということ、そこがアーティストの格の違いなんだと思ったということをカレーテご本人に申しました。私はどちらかというと、その時の雰囲気、共演アーティストの好みみたいのを察知して、その中で自分の踊りを探ってゆくタイプ。彼らに染まるわけではないんだけど、でも彼らの中で自分を光らせるようにするというか。でもカレーテは自分がやることを100パーセント共演アーティストに伝える、それを彼らが出来なかったらできるまで徹底的に指示する。そういうエンサージョでした。(ヘマ・モネオもどちらかというとそっち系。)
そんな話をしたらカレーテが一言。
「踊るのは私だから。アルテを出さなくてはならないのは彼らではなく私だから。」
・・・・そっかああああ、そうだよなああああ。。。
・・・そこまで私は自分の存在に、自分の踊りに責任を持っていなかった・・・
エンサージョの仕方というよりも、アーティストとしての自負というか心構えというか、そういうものが根本的に違うんだ、それも私に足りないものだった、って思った。
その後はトマシート。この人が出てきたらアルテと笑いは確約されているという、スーパーアーティスト。トマシートのビデオも「deflamenco.com」からYoutubeにアップされています。こちら→https://www.youtube.com/watch?v=28OlXPdAkYQ&list=RDfCF3S9iPqv0&index=2
本当に全てをトマシートの世界に巻き込んでしまう。思いもつかないことや何でもないもの(と素人は思う。笑)をアルテに変えてしまうマジシャンのような人。トマシートの時は客席から笑いが絶えなかったなあ。
それとびっくりしたのは、本番前日にリハーサルをしていた時(その時は私はティエントを踊っていた。笑)ちょうど私のリハーサル中にトマシートがスタジオに着いたようで、うわっ、トマシートにこのティエント見られてるよっ!!!って内心思いながらリハーサルをしたのですが、私のリハーサルが終わった直後にトマシートがつかつかと板の上に来て、「初めまして」ってトマシートご本人から挨拶しに来てくれたんです。私、びっくりしてしまって。こんな下っ端の踊り手なんかに、一流のアーティストがわざわざ挨拶して来てくれたの?!って。自分から挨拶しなかったのは本当に無礼だと自分でも思うのですが、リハーサルが終わった直後ふうって一息ついた瞬間にトマシートに挨拶されたので、こちらから挨拶する暇もなかったというか・・・。でもいろんなアーティストを見てきたけど、私みたいな下っ端はもともと眼中にない人がほとんどだし、うざいと思っているのか何なのか知らないけど(笑)、あえて眼中に入れようとしないというか、こちらから挨拶する隙すら与えさせてくれない人もいたような。(笑)だからトマシートからの挨拶は本当にびっくりした。そして思った。やっぱり一流というのは、こういうところも一流なんだなって。
最後はカナーレスのソレア。カナーレスはその存在感にいつも驚かされる。舞台上では別の物事が進行していて、カナーレスは何も言わずに舞台袖からすっと入ってくるのだけど、なんか「ん?」という感じがしてそっちの方を見ると、カナーレスがいる、という・・・。ただ歩いて登場してくるだけなのに。音も立てないのに。
そういうえば舞台監督さんとおしゃべりしていた時に、彼が仕事をしたアーティストの中で最も素晴らしいアーティストは坂本龍一だと言っていた。昔どこかの劇場で、監督さんや音響照明のスタッフが舞台の準備をしていた。その時に坂本龍一が一人ですっと劇場に入ってきたらしい。サウンドチェックの前で舞台作りをしている時だからまさか人が入ってくるとも誰も思わず、みんな自分の作業に集中していたし、指示する声やトンカチをカンカンやっている音で劇場は響いていたから、坂本龍一が入ってきたことに誰も気づかなかったらしい。で、入ってきた坂本龍一はピアノの前に座って弾き始めた。静かな音だったらしい。そしてその音が劇場内に響くと、スタッフ達は一人、一人、また一人と作業をやめていった。最終的には劇場内にいたスタッフ全員が坂本龍一の音に聴き惚れいていた。誰も一言も話さなかった。一つの音も出さなかった。
舞台監督さんは言った、「リューイチは一言も言葉を発しなかったんだよ、作業をやめてほしいとか静かにしてほしいとか、一言も言わない。彼は一人で劇場にやってきて、彼のピアノの音だけで皆を黙らせたんだ。ジュンコ、真のアーティストとは彼のことだよ」
私、身震いしました。
・・・ちょっと話はそれてしまったけど、カナーレスの存在というのもそれに近いものがあるんじゃないか、なんて私は思いましたけど。
すみません、想いがいろいろ余ってブログがまとまりません。文章にすると後から後からいろいろな記憶や言葉や感じたことが溢れてきます。
とにかくとんでもない方々に囲まれていたんだなと改めて思います。
そんな20年に一度のような機会を与えて下さったティト・ロサーダさん、本当にありがとうございました。この公演がいつかまたどこかで再演されますように。
そしたら今度はティエント踊るから。(笑)
写真:Carlos Azurin Fuentes
2019年6月5日 セビージャにて。