続/コンチャ・バルガスのクラス

今月もコンチャ・バルガスのクラスを受講する。ブレリアとカンティーニャス。

  • 7月3日(火)ブレリアクラス

先月から引き続き受講しているのは私を含め3人くらい。その他10数名は今月から。コンチャは先月とほぼ同じ振付のブレリアを教える。なんだ、また同じ振付か、と思う人はコンチャに習わない方がよい。あ、もうその振付知ってる、と思って受講するのもやめた方がよい。自分が知っていると思っているだけで知らないことだらけなのだ。フラメンコは。

コンチャがあるブレリアのパソの所でこんな説明をする。

「ここの部分は、私ならではの部分。コンチャの部分。だから数えることも教えることもできない。できるけどできない。30年教えてきて、ここ数年前からそういう部分を教えるようになったけど、まだ上手く教えられない。」

そう、それは左とか右とか、どの角度でか、とかそういう尺度でとれる振付なのではない。だからそういう質問をする方が本当は野暮というもの。フラメンコはその人自身がその人の人生の中で感じたこと、生きていることが瞬間的に現れるもの。その瞬間を説明しろ、というのは無理だから。

それを一番最初に私に教えて下さったのは、高橋英子さんだ。もう15年くらい前になるかな、英子さんのクルシージョで、あれは確かカーニャを習った。今ではもうカーニャの振付も何も覚えていないけれど、はっきり覚えていることが一つだけある。カーニャの最後のひっこみの部分で英子さんは、あの当時の私が見た事もないような動きをされた。(多分即興で)なんだろう!今の動き!分からないけど、きっと今のがフラメンコだ!と思った瞬間、私は即座に「すみません!今の動きを教えて下さい!」と叫んでいた。すると英子さんはしばしの沈黙の後こうおっしゃったのだ。

「教えたり教わったりするものじゃないのよね。私はこの動きを生活の中から学んだから。」

・・・・〝生活〟から学ぶ・・・・教えてもらえない、ということ・・・????????????

今なら分かる。でもその当時は意味が分からなくて、「なんで教えてくれないんだろう、こっちは一生懸命フラメンコを学びたくて英子さんに習っているのに。」と思ってしまった気がする。でもあの時の英子さんの言葉はずっと私の中に残っていて、その後数年経ってからやっと分かった。そして自分がセビージャに住むようになってもっと分かった。

英子さんは正しかった。そしてコンチャも正しい。

  • 7月3日(火)カンティーニャスクラス

ブレリアクラスが教室まんまんの人数だったのに対し、このクラスはたったの5人。パルマを習う。踊れる人も初心者も皆、パルマを習う。1時間ずっとパルマ。そのせいか、昨日来ていた人で来なくなってしまった人もいる。コンチャはパルマの重要性を説く。

「パルマをたたけなければ踊れない。パルマを学ぶことでどれだけ踊りを学ぶ助けになるか。昨日1時間パルマを学んだ。今日も1時間パルマ。でもその重要性を知る人は少ない。ブレリアのクラスはあんなに生徒がたくさんいたのにこのクラスの人数がこんなに少ないのがその証拠。」

その通りだと思う。そしてやっぱり叫ぶ(!)コンチャ。

「私が教えなければならないことを教えられずに、教えたくないことを教えなくてはならないのは、なんという苦しみ!!!!!なんという悲しみ!!!!!私が教えたいことを教えると、生徒はいなくなってしまう。皆足をぴょろぴょろ動かす踊りが好きだから、1時間座ってパルマなんてやってられないと思う。でも本当に重要なのはパルマなのに!私はペペ・リオスの舞踊学校で最初に毎日パルマを習わされた。6ヶ月間毎日パルマ!!!だからこそこのコンパスがある!!!」

そして続ける。

「皆新しい振付やパソを知りたがる。そんなにたくさん学んでも、一つとしてできていないくせに。そしてそんなことにお金を払いすぎる。学べていないのに払い続けている。悪いけど、特に、ヨーロッパの人はほとんどそう。もちろん私は彼らにパソや振付を教えることはできる。でも『そんなことでは決して学べない』と面と向かって言っている。でも日本人は違う。彼らは学び方を知っている。だからどんどん伸びる。そして 〝Imitan bien.〟( まねるのが上手い。)」

〝日本人が学び方を知っている〟、というのは人によると思うけど、それ以外は全く持って同感。

そして最後のコンチャの言葉。コンチャは〝Imitan bien〟(まねるのが上手い)と言った。その踊りは本物か、イミテーション(Imitación)か・・・

  • 7月4日(水)ブレリアクラス

コンチャの言葉。「私自身が〝Bulería romanzada(ブレリア・ロマンサーダ)〟の歴史である。私が死んだら、いつの日か『あのヒターナが bulería romanzada を踊った』と後世語り継がれるようになるだろう。」

・・・・全くもってその通りである。萩原、感服。

そして今日も叫ぶコンチャ。

「私はヒターナだ!!!私はコンチャ・バルガスだ!!!その私が教えたいように教えさせろ!!!」

一瞬シ〜ンとなった生徒達を前にコンチャはものすごい形相で、うなずきながら自分で拍手をし始める。それにつられて魔法からさめたように拍手をし始める生徒達。(私もですよ)よって、コンチャの好きなように教えるクラスの開始。そう、パルマから。

  • 7月4日(水)カンティーニャスクラス

コンチャがこんな話しをする。「もう21年くらい前になるけど、当時私は妊娠6〜7ヶ月でセビージャのビエナルでカンティーニャスを踊った。本当は踊るつもりはなかった。でもペドロ・バカンに『コンチャ、お願いだから踊って。妊娠している女性が踊ったっていいじゃないか。妊娠しているからこそ踊ってほしいんだ』そう説得されて踊った。とても太っていたの。だから肩から斜めに布をかけてお腹を隠した。赤い衣装だった。そしてこのカンティーニャスを踊った。ギターはペドロ、カンテはエンリケ・ソト。たくさんの人があの踊りを見て泣いた。そして今でも皆覚えている。あの赤い衣装のカンティーニャスを。」

コンチャがその話しをしながら、こう踊ったのよ、とブラッソを動かした。その瞬間、鳥肌が立ち、涙が出た。

  • 7月6日(金)カンティーニャスクラス

コンチャの言葉「私の踊りは何もやっていないようで、全てをやっている。」

  • 7月9日(月)ブレリアクラス欠席・・・

最近忙しい。この間はクラスにぎりぎり間に合うか?というところで自転車をすっ飛ばしてこいでいたら、おじいさんとニアミス。「ごめんなさい!!!!」と謝っておじいさんの顔をよく見たら、歌い手のパンセキートだった。あやうくパンセキートを自転車でひくところだったのか・・・反省。交通安全。

  • 7月10日(火)ブレリアクラス

コンチャの言葉「学び方を知らずに踊りを習ってどうするのか。」

  • 7月10日(火)クラスの後で

一緒にクラスを受講しているグラナダの踊り手〝N〟と、トゥリアーナの女の子〝E〟とピザを食べに行く。すると、そのレストランに、先日私が自転車でひきそうになったパンセキートとアウロラ・バルガス夫妻がやって来る。私達のすぐ隣のテーブルにつく。パンセキートは私のこと覚えているだろうか・・・とちょっと心配。アウロラ・バルガスはアーティストの後光がさしている。

NとEからすごい話を聞いてしまった。なんと、私がブレリアクラスを休んだ昨日、コンチャがクラスで激怒したそうだ。なんでもある生徒が「コンチャがちゃんと教えていない」と学校側に文句を言ったらしい。え〜!!!!驚く萩原。コンチャはきちんと教えているのに!!!しかしすぐに誰がそんな文句を言ったか大体の予測はついた。そしてその生徒は、私の予測通りの人だった。

踊りの上手な外国人の生徒がいた。いつも最前列、コンチャの横に陣取っている。踊りは上手いのだが、自分が上手いことを鼻にかけている。(というのがみえみえ)しかも感じが悪い。ある日、たまたまその人の後ろに位置づいてしまったことがあった。クラス中、その人のピアスが床に落ちていたのでそれを知らせたら、彼女は私を見もせずに、ピアスを拾い耳につけた。もちろん、ありがとうなんて言わない。ありがとうを言ってほしくて知らせたわけではないし、彼女の感じの悪さは分かっていたけど・・・・萩原、開いた口をふさぐのに苦労する。

ブレリアクラスには初心者からプロまで様々なレベルの人が集まっている。しかも7月はバカンスシーズンだから、1週間だけ、数日だけセビージャに来てクラスに途中から入る人もいる。全員が理解できるようにコンチャは最初から何度も繰り返し教えてくれる。しかし、踊りの上手なその〝無言ピアス拾い女〟はすぐにそこそこ振付をとってしまうから、何度も同じ事を教わるのが気に入らないのだろう。明らかに不服そうな態度をクラス中に表していたから。しかし踊りが上手いのは彼女だけではない。彼女よりもっと上手い上級者やプロだっている。でもみな何度でもコンチャに教わっている。振付けだけほしいなら他の先生に習えばいいのに。可哀想な人だと思うけど、先生に対する敬意を欠いているという点で許せない。

Nの言葉。「踊りが上手い(Bailar bien)ことと、フラメンコを踊る(Bailar flamneco)ということは違う。」

  • 7月12日(木)カンティーニャスクラス

最後のブレリアの一部を、「ジュンコ、一人でやってみろ」と言われる。やってみたら、「もう一度やってみろ」と言われる。言われるままにやってみたら、あの、ものすごい形相で、「あんたは私より上手く踊っている」と言われてしまった。そんなはずはない!!!!地球がひっくり返っても!!!!コンチャは言う。「私は腰でレマタールしているけど、あんたは上体でレマタールしている。あんたの方がいい。」・・・・いや、違う。コンチャは皆に教える時には、確かに腰でレマタールしているが、コンチャが一人で踊っている時には上体でレマタールしていた。私は後者をとっただけだ。でもせっかく褒められた(?)から、このレマーテは絶対に忘れない。私のものにしよう。

2012年7月13日(金) セビージャにて

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