萩原淳子のセビージャ・ビエナル鑑賞記2012 ①

みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか?

もうすぐあと1日で日本に発ちます。荷造りの最中です。家の中がぐちゃぐちゃです。それなのになんでブログなんか更新するのか。やるべきことがもっとあるだろうに、早く寝ればいいのに・・・と思いつつ夜中の2時。これは、テスト前に気になってマンガ読んじゃうのと一緒ですね。もしくはアルバムの整理とか。

今年のセビージャ・ビエナル。いくつかの公演を観ました。心を貫いたもの、楽しかったもの、意味不明だったもの、いろいろありました。

  • 9月3日 レアル・アルカサル 出演:マヌエラ・カラスコ、パンセキート、エル・ペレ、フアニート・ビジャール、エンリケ・エル・エストレメーニョ他

マヌエラはビエナルの開幕を飾るのに十分たる踊り手だ。今や「フラメンコの女王」ではなく「フラメンコの女神」とまで呼ばれるようになっている。でもこの日はマヌエラがマヌエラたる光を発していなかったように思う。それと、彼女のソレアの紫色の衣装。袖のボリュームがあり過ぎて紫キャベツみたいと思ってしまったのは私だけか・・・

マヌエラ・カラスコのソレア You Tube→watch?v=N-mrkHH6ajA

そして悪いけど、マヌエラ・カラスコには悪いけれど、この日一番、もしくはビエナルで恐らく一番だったのは、エル・ペレのカンテソロ、ソレアだった。私はビエナルを全部観ているわけではない。でもあのソレアを聴いて私はもういいと思った。ビエナル初日にして、これ以上何も聴く必要がない、これ以上フラメンコを観る必要がない、とまで思ってしまった。あの日あの時のエル・ペレは凄まじかった。もともと素晴らしい歌い手だけれど、あの日の歌は、あんな歌はもう聴けないかもしれない。気付いたら唸っていたのは私だけではなかった。会場中が唸っていた。唸りの、うめきの、叫びのoleだった。

エル・ペレのソレア You Tube→watch?v=81LC-bYCfv0

公演後フラメンコ仲間から聞いた。エル・ペレは癌で闘病中だという。この公演出演も危ぶまれたらしい。友達は言っていた。

「癌に対する怒りがカンテに現れていたのよ。」

絶望するのでもない、諦めるのでもない、自暴自棄になるのでもない。癌に対する怒りをアルテに昇華させて歌う。それがフラメンコなのだ。誰にもできることではない。エル・ペレという素晴らしいアーティストだからこそできたことなのだ。そしてその場に私はいた。決して彼のソレアを忘れることはない。それはYou Tubeにアップされている。世界中の人がそれを聞く事ができる。でも私はあの瞬間あの場所にいた。絶対に忘れることはない。

  • 9月5日 エスパシオ・サンタ・クララ 出演:ラ・ネグラ、アンへリータ・モントージャ

もうビエナルに行かなくていいと思ったけど・・・やっぱりネグラは聴かなくちゃ。トゥリアーナのモントージャ一家の母、ラ・ネグラ。あ〜ネグラ。

公演はほとんど、娘のアンへリータが歌っていた。でもアンへリータのカンテもいいよ。いいね。好きだ。ギターはパコ・イグレシアス。パルマはなんと、私が大好きな歌い手、ミゲル・ラビ(思わずミゲル・ラブと書きそうになってしまった♡)とモイ・デ・モロン。全員いいね!すごいね!いい夜だ!!!

そしてネグラの登場。それだけで感動してしまう。そしてちょっと歌う。タンゴ、ブレリア。さっきも言ったように、アンへリータのカンテもいいよ。でもやっぱりネグラが歌うと、ネグラにはかなわない。もちろん競争ではない。でもネグラは唯一だ。

そして最後のブレリアでアンへリータが、座っているネグラの手をとって一緒に舞台に立たせる。そして、自分を産んだ母ネグラに捧げる歌詞を歌う。

ネグラは泣いていた。もちろん私も泣いた。

そして私は思った。フラメンコを学んでいるとつらいことが多い。好きで学んでいるのになんでこんなにつらいのか、と思ってしまうこともある。でもこの歌を聴けたのなら、今までのつらかったことなんて全部帳消しでおつりがくる。そしてもっと思った。私は踊る。でも最終的に私が踊らなくてもフラメンコがずっと続いてゆけばよい。それを担っている人は少ない。ネグラはそのうちの貴重な一人だと思う。

  • 9月7日 マエストランサ劇場 出演:マリア・パヘス舞踊団

エル・ペレ、ネグラのカンテから打って変わって、セビージャ最大の劇場、マエストランサでのマリア・パヘス舞踊団公演。おもしろかった。マリア・パヘスの踊りは毎度おなじみ、あの長い腕をうねうね動かす。身体の曲線美をシルエットで、ぴったりした衣装で強調する。マリア・パヘスの大ファンでなければ、ああ、またあれね。という感じの踊りなのになんで作品となると面白いのかな〜。とにかく楽しめる。フラメンコだとかフラメンコでないとか、そういう議論は抜きにして劇場公演として楽しめる。うまく作ってるな〜。そして萩原の目を引いたのは、3本の、あれはなんだろう、恐らくゴムのような素材が天井から吊るしてある。それがいろいろな形に変わり、高さが替わり、それを吊っているケブールに照明があたり・・・うまい舞台美術に変化している。あの素材はなんだろう。ほしいな。

ちなみにその3本のうねうねは、ビエナルHPマリア・パヘス公演紹介の中の動画でアップされています。みてみて。

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一昔前の、とにかく大掛かりな、巨額をつぎ込んだであろう舞台装置ではない。もしかしてそのうねうねにも実はすごいお金がかかっているのかもしれないけど。でもシンプル。舞台を作るのにわざわざ大げさなことをする必要はない。必要性のないものをやると舞台は台無しになるから。

2012年9月23日 眠くなったのでひとまずここまで。おやすみなさい。 セビージャにて。

 

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