萩原淳子のセビージャ・ビエナル鑑賞記最終回&10/18ソロライブ

みなさんこんにちは!いかがお過ごしでしょうか?

約1ヶ月に及ぶ世界的なフラメンコの祭典「ビエナル・デ・アルテ・フラメンコ・セビージャ2010」は10/9を最後に終了しました。今回のビエナルでは観に行きたかったけど行けなかった公演もたくさんあり・・・今日は最後のビエナル鑑賞記。私が観た残り2公演のブログになります。

このビエナルシリーズのブログは結構書くのが大変だったのですが・・・(これが本業じゃないので)でもたくさんの方から「ビエナルブログ、興味深いです」「楽しみにしています」とメールを頂き、じゃ、もう少しがんばってみるかということで、結局自分が観た公演は全部ブログにしています。これまで読んで下さった方、メッセージを下さった方、どうもありがとうございました!

ではではビエナル・ブログの開始です〜。

【ビエナル・デ・アルテ・フラメンコ・セビージャ2010公式HP】www.bienal-flamenco.org

と、そこにアップされている写真を撮っていらっしゃる

【ルイス・カスティージャさんのHP】www.luiscastilla.com

(以下、ビエナル公演の写真:ルイス・カスティージャ)

 

 

 

 

 

 

  • 10月6日(水)「CUANDO YO ERA・・・」マエストランサ劇場、エバ・ジェルバブエナフラメンコ舞踊団



エバ
・ジェルバブエナ。現代フラメンコ舞踊界の最高峰に位置する踊り手といっても過言ではないだろう。そのエバが率いる舞踊団の新作。前回の「Lluvia」での、彼女が最後に踊ったソレアが記憶に新しい。今回の公演でのエバの踊りで私の心に強く伝わったのは、マラゲーニャ。ペペ・デ・プーラがマラゲーニャを歌いながらゆっくり「ろくろ」をまわす。泥土の中で踊るエバ。(文章にすると変ですね・・・)

映像はこちら→803-eva-yerbabuena-se-mete-en-el-barro.html

エバのインタビューはこちら→800-eva-yerbabuena.html

今回の作品の中で「ろくろ」と泥土を使ったことに関して彼女はインタビューでこう答えている。

「人生において時間、不在、個人的経験というのは人を変えていく。それは陶芸家が土をこねて変えていくのに似ている。だからその土そのものを舞台のある場面で使うのが一番だと思った。うまく説明できないけれど、ものすごい強烈な感覚。最初に泥土を自分の身体に感じる。そしてその泥土が乾いていく。ある瞬間自分自身以上になることがある。異なる動き方、異なる感じ方を呼び起こす。すばらしい経験だった。自身から何かが引き出されることになる。そこにそれがあることすら自分では知らないのにね。」

あの時私が感じたものは、エバ自身すら知らなかった、エバの中から引き出されたものだったのかもしれない。自分が持っているものを、自分自身を自分が全て知っているとは限らない。むしろ知らないものの方に真実が隠されていたりする。でもその真実に近づける人は少ない。そしてその真実を引き出せる人も。ましてや舞台の上でそれができる人は・・・もっと少ない。エバ・ジェルバブエナという人はそれができる数少ない踊り手のうちの一人なのだろう。

そして舞踊団員のフェルナンド・ヒメネス。彼がピカ一だった。(ちなみに写真の男性舞踊家はもう一人のエドゥワルド・ゲレーロの方です。)フェルナンド君はスタイル抜群のエドゥワルドに比べると身長も低く、手足も長くない。ぱっと見た目感じでは確かにエドゥワルドの方がかっこいいのだけれど、私はフェルナンド君にOLE!を言いたい。彼が踊ったブレリア。チャップリン風の衣装をまとい、ピエロ役の彼は好きになった女の子に踊りで求愛する。でもピエロで あるがために彼女は見向きもしない・・・。そんな設定のブレリア。ピエロ役だから振付もコミカルだ。ちなみにコミカルな動きをコミカルに踊りこなすのは相当難しいはずだが、フェルナンド君はうまい。その舞踊技術レベルの高さにも驚くが、それ以上に、彼がどんなに彼女のことを好きで、それを伝えたくて踊っているか、それが痛い程伝わってくる。ヘロモ・セグーラが歌う「僕は悲しいピエロ。みんなは僕のことを笑うけど、僕は心の中で苦しんでいる。」という歌詞と相まって、私は本当に泣いてしまった。(今も思い出して涙を流す私。)

あのブレリアをフラメンコか、コンテポラリー・ダンスかという議題にかけるのはちゃんちゃらおかしい。そんなことはどうでもいい。重要なことはフェルナンド君は素晴らしい踊りをして、彼から発せられたものは私の心を貫いたということである。

そしてパコ・ハラーナの音楽。ギター。この公演の音楽をサウンド・トラック盤CDにできるんじゃないかな。・・・なんて変な提案だけど。素晴らしい音楽性。歌い手達も素晴らしかった。ペペ・デ・プーラ、ヘロモ・セグーラ、モイ・デ・モロン。

ただ個人的には、「モイの歌うソレアで踊るエバ」という最高の組み合わせ(私個人の好みですが)を期待していたので、それがかなわずがっかり。モイはこの公演の中であまり歌わなかったし、歌ったブレリアはすごくよかったのだけど、エバの踊るブレリアがあまりにも作り込み過ぎているような気がして、モイを十分に活かしていなかったような・・・。う〜ん、もったいないなと思ってしまった。

エバが最後に踊ったのはセラーナだった。それについて彼女はインタビューの最後でこう答えている。

「舞台のシーンを見て行った時に、セラーナが必要だと思った。セラーナの持つ特徴、ドラマティックさ。それは作品を作りながら決めた。そしていつも同じ曲種を踊らないように。繰り返さないように。自分がこれを伝えると決めて作っている。(今回)私はソレアを踊らない。ソレアを踊る事を決めた上で、作品が失敗に終わっても、ーそういうことだってあるでしょー、最後に私がソレアを踊れば観客はみんな満足、という風にはしない。私はそうではないから。そうはしないわよ。」

よく分かる。理にかなっている。舞台作品を創造するというのはそういうことだと思う。

・・・でもやっぱりエバのソレアを観たかった。虎屋といえば羊羹、エバといえばソレアだよ・・・・。

  • 10月8日(金)「BAILAR VIVIR」ロペ・デ・ベガ劇場、出演:ラ・モネタと舞踊団

    いいこと
    から書くか、悪いことから書くか・・・・。後味をよくするために悪い事から書くかな。悪い事・・・というより私の目で見て許せなかったことは、今回の公演に出演した3人の男性舞踊家。この3人ともブーブーブー。まず幕が開いて、この3人が舞台を縦横無尽に歩き回る。もうその時点であちゃ〜。なぜなら舞台で3歩も歩けば大体その踊り手の実力が分かるから。その後彼らがようやく止まってくれたのでよく見てみる。一人はなんだか子泣きじじいを縦長にした感じ。もう一人はお人好しの中村獅童。残る一人はまあまあカッコいい。長谷川初範似。ちょっと踊り始めたのでよく観察してみる。子泣きじじいはこりゃ、ひどい。こっちが泣きたいよ。この人の踊りは基礎がないまま、最近流行りの現代的な振付けの形だけ勉強してきた人特有の踊り。クルシージョの生徒さん達に是非見せたかった。「基礎をちゃんと勉強しないとこんなになっちゃいますよ」って。百聞は一見にしかず。この手の踊り手は、セビージャの舞踊学校の上級クラスに結構いる。ぱっと見た目上手に踊るしパソをとるのも早いので、たいてい1列目を陣取っている人達である。獅童の踊りは記憶にない。獅童なら獅童で凄みが出ると思うんだけど、「お人好しの中村獅童」だからインパクトに欠ける・・・。子泣きじじいよりはマシだったと思うけど、あの人踊ってたっけ?背が高いだけで、電信柱みたいな印象しかないんだけど・・・長谷川初範は3人の中ではまあまあ踊れる方だ。ルックスも悪くない。ただしこの人の踊りを見続けるのはキツい。なぜなら本人が「オレってかっこいいだろ、上手いだろ」というのをムンムンに出しているからである。あ〜いやだ。こういう男にロクなのがいない。美人は3日で飽きられるらしいが、カッコだけを売りにしている男なんて3秒で鼻つまみよ。なぜこんなボロクソに書くのか。それはこの“スーパートリオ”がこの公演をすべてぶち壊しにしてくれたから。ダビ・エル・ガジとミゲル・ラビの、それはそれは本当に素晴らしいカンテソロ(マルティネーテ)の時に3人が踊りで乱入してきてカンテぶち壊し。あまりにも踊りがひどいので目を閉じる。目を閉じても足音が聞こえてくる。どうしたらこんなひどい音が出せるのだろう。また、モネタが踊り終わるごとに3人が登場、彼女の踊りの余韻に泥を塗って行く。しかもモネタの最後のソロのソレアで、舞台にパルメーロとして座っていた。もう、その椅子に座っている姿を見るだけでげんなり。(いいアーティストというのは椅子に座っているだけでも分かるものである。)しかも予想通りのひどいパルマ。勘弁してほしい。極めつけは、ソレアの最後、ブレリアでモネタと一緒に踊っちゃった。

    あ〜この3人がいなければ・・・・なんでモネタはこの3人を起用したんだろう。自分の引き立て役?それとも何か借りでもあるのか・・・

    それ以外は全てすごくよかった。モネタはカスタネットでペテネーラを踊ったり、マントンとバタ・デ・コーラでサンブラを踊ったりと、彼女の新たな面をたくさん見せてくれた。タラントの歌ぶりの部分は気合いが入り過ぎて、でもその割にはカンテをちゃんと飲み込んでいない。(タラントを踊るのは難しいなと改めて思う)でもタンゴに入ってからすごくよかった。最後のソレアもマヌエラ・カラスコをかなり意識しているみたいだけど、でもよかった。その方向性が好きだ。

    ガジとラビもよかった。やっぱりラビはすばらしかった。(ミゲル・ラビのすばらしさは、このビエナルブログ①で詳しく書いています)会場からもカンテの好きな人の「OLE」がさかんに飛んでいた。そうだよね。いいよね。私も好き。そう思った瞬間が何度もありました。

    ギターのミゲル・イグレシアスとパコ・イグレシアスもよかった。音楽的にすごく素敵。よくを言えばもっと強くががががが〜と弾く瞬間があってもモネタの踊りがいきるんじゃないかなと思う。

    ゲスト出演したディエゴ・アマドールのピアノ。これもよかった。もう少し聞きたいくらい。

    今思ったけれど、私にとっての、今年のビエナルはミゲル・ラビに始まり、ミゲル・ラビに終わった。最後に彼のカンテで閉めることができてよかったのかもしれない。

    今年のビエナルは結構観た方だと思う。たくさんお金を使い・・・それはそれでキツいのだけど、観て勉強できることは数知れない。いろいろなことを考えた。そのうちの一部をブログにすることで自分の頭の中を整理することもできた。

    そして一流アーティストの舞台を生で観ることで、自分なんてまだまだまだなんだな、と改めて思う。ま、これでいっか、と妥協してしまう部分をそれじゃだめなんだ、と気合いを入れることができた。(でも気合いが入ったところでそれができるかできないかは別問題なんだけど。)私もがんばろう。自分のことを棚に上げて他人のこと言うのは簡単。じゃあ自分の踊りはどうなんだ?という話になってくるからね・・・(大反省)。

    来週の月曜日はセビージャでソロ・ライブを行います。小さなことからコツコツと。

    2010.10.18 // カハ・ネグラ -(セビージャ)開演22時、入場料5ユーロ

    Baile Cante Guitarra
  • 萩原淳子

 

  • フランシスコ・チャベス エル・プラテアオ
  • ウーリッヒ・ゴッドワード
    エル・リソス

 

そしてその次の日にはもうセビージャを発ちます。1週間の東京・中野でのクルシージョの後、妹の結婚式に出席するのです!

ではみなさん、またお会いしましょう。

2010年 10月14日 ちょっと風邪を引きました・・・みなさんもご自愛下さい。 セビージャにて

Comments are closed.