萩原淳子のセビージャ・ビエナル鑑賞記 ②

みなさんこんにちは!

早速ですが、前回ブログに引き続くビエナル鑑賞記第2弾です。

「ビエナル・デ・フラメンコ・セビージャ2010」公式HPはこちら→www.bienal-flamenco.org

以下写真はこのHPから引用しています。(写真:ルイス・カスティージャ)

  • 9月20日(月)「La Pasión según se mire」ロペ・デ・ベガ劇場、出演:アンドレス・マリン、コンチャ・バルガス、ホセ・デ・ラ・トマサ、ローレ・モントージャ他 個人的にはアンドレス・マリンの踊りはあまり好きではありません。彼の踊りを観ていると、どうしても私の脳裏にはイスラエル・ガルバンがよぎってしまう。でもこの公演はよかった!!!アンドレス・マリンの踊り云々ではなく、舞台作品としてのアイディア。そしてゲスト出演で踊ったコンチャ・バルガス!この人は本当に・・・・アルティスタだ。出て来ただけで。もちろん踊り出したら・・・・!!!!!!そして忘れてはならないのは、このコンチャに歌ったホセリート・デ・レブリハ(レブリハのホセという意味)。彼のカンテなくしてあの踊りはなかったと思う。コンチャの踊りなくして彼のカンテもなかった。コンチャが生まれ育った土地、レブリハはセビージャとヘレスの中間くらいにある村。ものすごいアルテのある土地だ。そのレブリハの二人が生み出したフラメンコ。ヘレスのブリリアも素晴らしい。でもレブリハのブレリア(ロマンセ)も私にとっては格別。そしてカンティーニャスも。カディスのアレグリアスがあり、レブリハやウトゥレーラ(この村もアルテに溢れている)のカンティーニャスもある。フラメンコとはなんと豊かな芸術なんだろう!アンドレス・マリンはコンチャを最大限引き出すためにホセ・バレンシアを呼んだのかもしれない。きっとカンテが好きな踊り手なのだろう。 そのフラメンコにOLE!である。
  • 9月21日(火)「Sonerías」マエストランサ劇場、出演:ファルキート、他

 

 

今年のビエナルのチケットは例年よりも数ヶ月早めに売り出されて、私は遅れをとった。気づいた時には観たい公演のほとんどが売り切れになっている。インターネットというのはすごい。ファルキートの公演もそう。がっかりしていたが、9月に入ってからなんとなくビエナルのHPを見ていたら、売り切れたはずの公演のチケットが数枚売りに出されている。しかもすごくいい席!なんで〜?招待席のあまりなのかな?なんでもいいけどとにかくすぐ買う。そうして買えたファルキートのチケット。あ〜、観たい、ファルキート。いつもより3割増着飾ってマエストランサ劇場に向かう。

マエストランサ劇場満場の観客の熱気が幕を開ける。みな私と同じ気持ちだろう。しかし・・・舞台奥に設置されているバルのカウンター。そしてそれに当てられる照明。見た瞬間にいやな予感が・・・。あまりにも安っぽい。マエストランサ劇場で、ファルキートの公演でこれはないだろう。そしてその予感が的中し始める。舞台正面の客席奥からファルキート一行が歩いて舞台へ。その演出も手垢がついている。期待が失望に変わり始める。で、でも・・・ファルキートの踊りを見さえすれば!!!一縷の希望をこれから始まる舞台にかける。

キューバ音楽とフラメンコのフュージョンというアイデアが悪いのではない。そんなフュージョンはフラメンコでない!というつもりもない。そんなことよりも、舞台全体がてんでばらばらだ。ファルキートの他に出演した4人の女の子達。ファルキートの生徒なのかな。サパテアードは確かにすごい。でも舞台に立っている時の、なにもしていない時の、品性というか踊り手としての品格というかそういうものが全くない。がんばって踊っているのはよく分かるけど、あんなに足が動いてすごいなと思うけど・・・その存在が舞台の格を確実に落としている。ファルキートはなぜ彼女達を起用したのだろう?

全体的にフラメンコの舞台というより、安っぽいミュージカルみたいだ。振付、構成、照明、舞台転換、全部が。ミュージカルが悪いわけではないのだけど、それはファルキートがすることではないだろう、というよりそうあってほしくない。最高級の100%バージン・オリーブオイルがほしくてそれを買ったのに、中身がひまわり油だったら・・・・?でも油は色を見れば大体わかる。フラメンコの舞台はチケットを買い、席に着き、幕が上がるまでは分からない。

そして肝心のファルキート。何を踊ったっけ?タラント少しと、4人の女の子達とそれぞれセビジャーナスを踊って・・・・。あ、グアヒーラもあったっけ?にしても、ほんのちょっとしか踊っていない。フィン・デ・フィエスタのブレリアも4人の女の子達が皆一人ずつ踊ったのに、ファルキートは踊らなかった。なんで?みんなあなたの踊りを観たくてここにいるのに。

最後にすごいことが起こった。アーティスト達が一列に並んでいる。何が始まるんだろう?そろそろ本当にファルキートの踊りが観たいよ。と、その時ファルキートが言った。「muchas gracias.(どうもありがとう)」。・・・・一瞬の沈黙。マエストランサ全体の沈黙。ええええええええっ!もしかして、これで終わり????だってまだちゃんと踊ってないじゃん!そりゃないでしょう!!!ぱらぱらと拍手が起こり始める。誰一人として舞台が終わったことが気づかなかったはず・・・こんな公演ってあり?しかもファルキートだよ。

一体なんだったんだろう、という疑問を持ち会場を後に。マエストランサ近辺はフラストレーションの渦になっている。ちょっと考えてみた。もしかして、ファルキートはあの舞台をブロードウェーとかで上演したいのかな・・・「フラメンコ・ミュージカル with ファルキート」????・・・・う〜ん、それだったら理解できる。あの舞台。

にしても、どうしようこのフラストレーション。仕方がないので友達とサルサを踊りに行っちゃったよ〜。あ〜あ〜。

  • 9月24日(金)「Mujerez」ロペ・デ・ベガ劇場、 出演:フアナ・ラ・デル・ピパ、ドローレス・アグへータ、ラ・マカニータ 、他今日こそ!と期待してロペ・デ・ベガ劇場にかけつける。私の好きなドローレス・アグヘータ。好きというか・・・・この人の歌は心に届く。血管の中に入り込み、彼女の歌は私の全身をかけめぐる。上記主演の3人が舞台に立ちトナーを一人ずつ歌う。マカニータもよかった。でもドローレスの歌を聴くと涙が自然と出てしまう。気づいたらそのマカニータも涙をぬぐっている。そして続く全員のファンダンゴ。 涙が乾ききらないうちに、またどんどん涙が出てくる。そして最後のブレリア。今日来ることができてよかった。以前私のクルシージョの「マルティネーテ」クラスで、ドローレス・アグヘータのCD「La Hija del Duende」の中のトナーを使ったことがある。生徒さんのほとんどが誰もドローレスの名前も知らない。クラスの中で踊ることをやめ、ただ聴いてみる。みんなしーんとしている。「そんなことより早く踊り教えてよ」と心の中で思っている人もいるかもしれない。でもいいのだ。私は自分が教えたいことを教える。振付だけほしい人は他のクルシージョに行けばいい。そしてそこで歌われていることを訳してみた。もちろん日本語に訳すと(しかも私の訳だし・・・)ニュアンスがかなり変わってしまうのだろうけど、ただ“ミュージック”として歌を聴くのではなく、その歌い手が何を伝えたいのか、少しでも感じてほしかったから。カンテはその人の人生から出てきている。その人そのものでもある。特にドローレスの歌は。クラスの後、しばらくしてからある生徒さんから言われた。「あのCDを探してみたんですけど、廃盤になっているそうです。」・・・・・・・・・・そんなことってあるのだろうか。すごくショックだった。でも別の生徒さんが言っていた。「『MUJEREZ』のCDはあります。」おお!もっともっと歌を聴きたい。そう切に感じた夜だった。2010年10月3日 セビージャにて。

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