セビージャ・ソロ公演 無事終了しました!

みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか?

2011.6.29 //  “ミエルコレス・ア・コンパス” カルトゥッハ修道院(セビージャ)21:00開演

Baile Cante Guitarra
  • 萩原淳子
  • ヘロモ・セグーラ
  • ハビエル・リベーラ
    • ミゲル・ペレス

お陰様で、水曜日のセビージャ・ソロ公演は無事終了致しました。観に来て下さった皆様、日本から応援して下さった皆様どうもありがとうございました。

金曜日のコンクール予選後に右肩、右腕、右肘、右手が痛み出し・・・多分マントンの練習のし過ぎだと思うのですが・・・痛み止めのクリームを塗ったら全身に発疹が出てしまいました・・・・気を取り直してスイカでも食べるか、と思ったら、今度はスイカが切れない・・・右腕に力が入らない・・・・あ〜あ〜こんな状態で踊るのか〜と落ち込んでいましたが、たくさんの方から応援メッセージを頂きなんとか水曜の舞台に臨みました。

カルトゥッハ修道院が併設された、セビージャ現代美術館の庭。野外に設置された特設舞台。開演21:00。ちなみにセビージャのこの時期の21:00というのは夜ではありません。まだ昼。しかもここ数日は気温40度。こんな時間帯に誰がフラメンコ公演なんて観に来るのでしょうか・・・22:00頃になってようやくあたりが薄暗くなり始め気温も下がり始める頃、セビージャの人はやっとそろそろと町中に出始めます。夏の野外公演というのは、だから開演は早くとも22:00。(なんだかんだで始まるのは実際それより遅かったりもする。)でも私の出演したこの公演は“昼”21:00開演・・・それはなぜか?

経済危機。

crisis(クリシス)と呼ばれる経済危機。ここ数年スペインを襲っているその経済危機とフラメンコ公演の開演時間になんの関係があるのか?公演の場所を貸してくれているのはセビージャ現代美術館。本来、美術館閉館後フラメンコ公演のために職員が残るのであれば残業代が出ます。しかし、その経済危機のために残業代カット。つまりサービス残業では誰も働かないわけです。どう考えてもこの時期に21:00開演でお客さんが入るわけないのですが、美術館職員にはそんなこと知ったこっちゃないわけです。彼らが就業時間内に仕事が終われるよう、フラメンコ公演の開演時間も設定されるわけ。たとえ気温40度を超えていようが、客席がガラガラだろうが、関係なし。

そして開演時間だけではありません。公演の企画団体側でも広告費がカットされたそう。私が踊った日はお客さんは50名ほどしかいらっしゃいませんでした。でも昨年9月から毎週水曜日に行われていたこの公演、もっとお客さんが少ない日もあったとか・・・なんて悲しい・・・そして今年1月からいまだに誰にも出演料が支払われていないそうです。これも経済危機のせい。お金がない。1月に出演した踊り手に今まだ出演料が支払われないのなら、私が出演料を頂くのは早くとも年末???・・・・ありうる。いや、年内に支払われるのならラッキー、お年玉でもラッキー、くらいに考えておかなくては。

でもこれは驚くべきことではありません。フラメンコだけでなくどの職業の人も同じような思いをしています。失業者が増えているのはもちろんのこと、職を持っていてもお給料が支払われていない人もものすごく多い。生活ができない。次の仕事への資金が足りない。そんな状況がここ数年でどんどん目につくようになりました。震災後、日本のとある踊り手さんが「東京ではライブやクラスがキャンセルになっちゃって、もうフラメンコでは食べていけないのかとみんな焦ったんだよ」とおっしゃっていましたが、そんな状態がここではもう数年続いています・・・。そしてどんどん悪くなっている・・・

なんだか暗〜くなってしまいましたが、本当の話です。

で、元に戻ってセビージャ・ソロ公演ですが、そんな中公演を観に来て下さった方々には本当に感謝したいと思います。とても暑かったと思います。そして私も暑かった・・・あの楽屋・・・というか物置・・・鏡も椅子もなく、もちろん冷房も扇風機もないその場所に通された時、私は言葉を失いました。今までいろいろな楽屋に通されたので免疫はついているのだけど・・・・この楽屋はワースト3には確実にランクインされる。これも経済危機のせいなんだろうか・・・お金が払われれば皆働く。でも払われないとわかっていることに誰も労力を費やさない。ここで出演者が着替えることがどんなに大変か想像できるはずなのに。もしくは想像すること自体労力の無駄使いだと思って何も考えないのだろうか・・・すごく悲しくなって涙が出そうになってしまったけど、それよりも出てくるのは汗。大汗。

ま、いろいろありましたが、とにかく踊りました。ソレアとバタ&マントンのアレグリアス。先週の金曜日のコンクール予選の時の方がよく踊れたような気がします。満場のコンクール会場であったペーニャ。本番前にギター・カンテと合わせをしていた時に、ペーニャの台所から年配の女性が顔を出し「アンタのマルカールの音を聞いているだけで、どれだけ踊れるか分かるよ。もう何十年もフラメンコ聞いているから、この耳で。アンタの踊りは楽しみに観させてもらうからね。」と私にウインクしました。なんとその女性は実は審査員だったのですが。

自分が踊る時に感じるエネルギーの循環。自分のエネルギーとギター・カンテのエネルギーとお客さんとのエネルギーと。それがぐるぐるじゅんじゅん回っていく。コンクールで感じたそれが今回はあまり感じられなかったかな・・・広大なお庭にまばらに座っていらっしゃるお客さん。なんだか芝生に向かって踊っている気がして。自分から出ているエネルギーが戻ってこない感じ。踊れば踊るほど虚しくなってきて、でもその虚しさに負けてはいけない、と必死に自分に言い聞かせて。そうしているうちに踊りが終わってしまいました。

せっかくセビージャで踊ることができたのに、残念な気もします。暑い中お越し頂いた方にも申し訳ないような気もします。でもそう思っているのは自分だけで、お客さんは満足していらっしゃる場合もあります。公演後“楽屋”にいらして下さったみなさん、後で携帯メッセージを下さったみなさんからはそんな様子を伺えました。ありがとうございました。

その中でも一番嬉しかったのは、3年前、セビージャのペーニャ公演に私を抜擢・推薦して下さった、とあるペーニャ会員の方がいらしてくれたこと。そしてその方からのメッセージ。「とてもすばらしく踊っていたよ。踊りが成熟してきている。」

ある時にはよく踊れるし、別の時にはよく踊れないこともある。自分がよいと思っても周りの反応は今ひとつだったりする時もあるし、その逆もある。でも長い年月をかけて、いい時も悪い時も見守って下さる方がいらっしゃる。舞台に足を運ばなくても応援して下さる方もいらっしゃる。それはとても有り難いことだと思います。そうやって私は少しずつここで踊り手として積み重ねてきたのだなと思いました。そしてこれからもそうしてゆくのだと思います。

なんでも勉強。全部勉強。一生勉強です。

2011年 7月2日 今日はちょっと気温が下がったセビージャにて。(写真:アントニオ・ペレス)

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