ミラグロス・メンヒバル

何から始めてよいか・・・・みなさんこんにちは。

久しぶりに内蔵からoleが出ました。涙も出ました。ミラグロス・メンヒバルの踊りを観てきました。なんという踊り手なんでしょう。なんというアルティスタなのでしょう。今日の夜のことは決して忘れることはないと思います。

家に帰って早速、自分の中に残っているミラグロスを再現してみました。素晴らしい公演を観た時には、「よかったね!」と周りの人と共有したい気持ちがあります。でももっと素晴らしい公演に出会った時には、アーティストが自分の中に残してくれたものをひっそりと、でもしっかりととどめておきたいものです。今日観たミラグロスの踊りは後者でした。もちろんミラグロスの踊りのまねなんてできない。観たものをそのまま再現できるのは、漫画「ガラスの仮面」の北島マヤくらいなのでは?(確か1巻で、マヤは自分が観た演劇の全ての台詞を再現しています。)ま、そんなことはともかく、何でもいい。ミラグロスが私に残してくれたものが刻み付けられさえすれば。

舞台袖から舞台に立っただけで、そしてブラッソ(腕)を、マノ(手)をほんの少し動かしただけで、ole が出る。涙が出る。そしてあのバタ・デ・コーラ。ミラグロス本人とカンテとギターと一体になったバタ・デ・コーラ。あのアルテ(芸術性)を感ぜずに一体何があるというのか、この世の中に。

バタ・デ・コーラ。裾の長い衣装で、それは女性フラメンコ舞踊家の化身とも言えます。その扱いは難しい。そしてそれを舞台で踊るのはもっと難しい。でもスペインではプロフェッショナルな女性の踊り手ならバタで踊れる技術を持っていて当たり前。小学生が学校で九九を学ぶのと同じ。バタが好きか嫌いかの好みは別として、できて当たり前のレベルにしてプロフェッショナルと言える。その意味でバタで踊る踊り手はたくさんいる。でもその多くが、バタをただ履いて床掃除をしているだけか、バタをスポーツ化してぶんぶん振り回しているだけかのどちらかだ。

ミラグロス・メンヒバルは派手な大技はほとんどしない。でもバタにおいて一番肝心な部分は決して外さない。というより、ぶんぶん派手な大技をしかける踊り手が絶対に持っていないものを持っている。これはきっとバタを学んだことのある人、バタで踊る人にしか分からない。多分。

なんて素晴らしいのだろう、ミラグロス・メンヒバル。

そしてバタだけではない。意外と知られていないけれど、実は彼女のサパテアードというのも素晴らしい。ミラグロスというとバタ、上体やブラッソ・マノの動きで有名だ。だからミラグロスのサパテアードはそれ程語られることはない。でもすごい。何がすごいって、あの質。私が思うに、現代、男も女もみんなうるさすぎる。とにかく音を出せばいい、音をつめればつめるほどよい、リズムが変わっていれば変わっているほどよい、そんな傾向がある気がする。どれだけ難しいことをやるかばかりを追い求めて、その音楽性というのが見失われがちになっていると感じるのは私だけか???

フラメンコの靴は靴ではない、楽器なんだよ!!!ミラグロスのサパテアードを聴け!!!

そして萩原個人的な見解として、さらにミラグロスの素晴らしさを上げるとすれば、ミラグロスはカンテを、ギターを踊ることである。彼女自身がカンテでありギターである。彼女のバタ・デ・コーラがカンテでありギターである。カンテの歌詞を演劇のように演じるのではない。ギターのメロディーに合わせて振り付けし、それを遂行するのでもない。彼女は舞台の上で生きている。カンテとギターとともに。彼女の踊りがカンテとギターに命を吹き込む。吹き込まれたカンテとギターは新しい生命力を持ってミラグロスの踊りにさらなるエネルギーを与える。そしてその命とエネルギーはいつ舞台の上で生まれるのか誰も分からない。生まれた瞬間にしか分からない。だからその瞬間 ole が出る。内蔵からの本物の ole が。

ギターはラファエル・ロドリゲス、歌はマノロ・セビージャとフアン・レイナ。ミラグロスが素晴らしいということはカンテとギターも素晴らしいということである。踊り手の公演で伴奏ギタリストにoleが出る公演というのはほとんどない。でもラファエルのギターにoleが出ない人はいない。白髪のマノロ、同様に大ベテランのフアン・レイナ。彼らの歌が素晴らしいのもさることながら、二人とも公演中ずっと立って歌っていた。その姿勢の美しさ。精神性。「疲れるから」という理由で立って歌いたがらない若手の歌い手も多い昨今、これは特筆すべきことではないのか。

この公演のもう一人の出演者、ルイサ・パリシオ。ミラグロス秘蔵っ子の若手舞踊家だ。美しい。ところが踊っている最中に転んで文字通り尻餅をついてしまった。あ!と思った瞬間に立ち上がってまた踊り始めた。きっと悔しいだろう。つらいだろう。本当のところは本人にしか分からない。でも想像するに余りある。しかしお客さんはみんなルイサの味方だった。ルイサが踊り始めた瞬間に自然とわき起こった、客席からの応援の拍手。なぜ?ルイサの踊りが皆好きだから。がんばれルイサ。元気を出して!!!

今日、ミラグロスのアルテをシャワーのように浴びれた事に感謝する。

ミラグロスもフラメンコも偉大だ。

2013年2月7日 気づいたら私の公演まであと2ヶ月。私もがんばる。   セビージャにて

Comments are closed.