「ハモンは皿にのせるだけでよい」公演への道のり③

ギターソロ(タランタ) カンテソロ(マラゲーニャ)みなさんこんにちは。

劇場を予約し前納金を払い、心の中で決めていた招聘アーティスト(ミゲル・ペレスとモイ・デ・モロン)に公演の話をすることにしました。彼らとはスペインで何度も一緒に仕事をしている。私はスペインの出演料の相場は分かるけれど日本の相場というものが全く分かりませんでした。そのため、周りの人でスペイン人を招聘したことのある周りの人達に金額をなんとな〜く教えてもらいました。う〜む。分かるような分からないような・・・。相場といってもあるようでないもの。アーティストによってもそれは大きく異なります。スペインの相場をそのまま日本の相場にあてはめることはできないし・・・。しかし共通しているのは、招聘する人間が、飛行機代・宿泊代・食費・興行ビザ発行代を全て払わなくてはならない。そしてそれプラス出演料。

よく考えました。本当によく考えました。公演の収入はチケット販売のみ。チケットが売れなければもちろん赤字。でも売れるか売れないかはやってみないと分からない。しかも初めての劇場公演。どのくらい売れそうかというのが想像がつかない・・・。さらにその他にかかるものもある・・・劇場使用料、音響照明スタッフへのお支払い、経費、宣伝広告費、私だってこの公演のためにスペインから日本へ行くのだ。忘れてはいけない自分の飛行機代。ざっといくつか挙げただけで膨大な支出額がはじき出されました。

第1回目のソロ公演「魚の選び方を知った時」はチケット販売開始後数日で完売になった。追加公演も行いそれも完売になった。公演の反響も凄まじかった。お客様はまた私の公演を観に来て下さる、確信に近いものもありました。でもあれは1回目だったから、すぐに完売になったのかも。チケット代が5000円だったから売れたのかも。場所が新宿や恵比寿のおなじみのタブラオだったからお越し頂きやすかったのかも・・・。今回は2回目。劇場公演。キャパも違う。チケットの値段も違う。「新百合ケ丘」という場所も関係してくるかもしれない。もし売れなかったら・・・???これまでに少しずつ貯めてきた元手はある。でも赤字がそれ以上になったら・・・・。

何人かの人は私に言いました。「日本にいるアーティストと共演すれば?」

確かにそれもあるかもしれない。日本にだっていいアーティストはいる。しかも、前述の飛行機代・宿泊代・食費・興行ビザ発行代この支出が全部ゼロになる。支払うのは練習代と本番当日の出演料のみ。支払い額が全然違う。全然。

でも私の頭の中ではもう、公演の構想はその時点ですでに大体できていました。私が必要なのはミゲルとモイ。支出を減らすために誰か別のアーティストに声をかけるなんてことは考えられませんでした。

あの時私は一時帰国中で日本にいました。意を決しました。この公演をやる。チケットは売る。

まずギタリストのミゲル・ペレスに国際電話をしました。本当は会って話したい。でもスペインにいた時は勇気がなくて話を切り出せなかった。またスペインに帰ってから話すこともできるけれど、それでは遅い気がしたのです。今、話さなくては。そう思って衝動的に電話をしたのを覚えています。公演の話をし、彼は二つ返事でokを出してくれました。そしてミゲルは言いました。「ジュンコの第1回目の劇場公演で弾けるということは自分にとってとても重要なことなんだ」。ありがとう、ミゲル。やっぱりミゲルに頼んでよかった。

そしてその勢いでモイに電話。なんとモイがすぐ電話に出た!これは本当に珍しい。日本からかけたのが功を奏したか??? そしてモイも二つ返事でokでした。モイは言っていました。「ミゲルと二人だけで働くのは初めてなんだ。ミゲルと自分とジュンコの3人で日本で仕事ができるのが本当に嬉しい」と。そしてこうも言っていました。「ジュンコにとって初めての劇場公演なんだろう?ジュンコが劇場を借りて、全部払うんだろう?それがどういうことが分かっているよ」

私は涙が出そうになりました。モイという人の本当の姿を国際電話の向こう側に垣間みたような気がしました。

公演5ヶ月半前。昨年10月、「魚の選び方を知った時」公演が終わったすぐ後のことでした。

写真:4月6日(土)「ハモンは皿にのせるだけでよい」公演。撮影:松本青樹氏

2013年4月17日

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