マヌエル・ベタンソスのクラス

01-munuel-betanzosみなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

今月は午前中にマヌエル・ベタンソのガロティンクラスとソラジャ・クラビホのティエントのクラスを受講しています。ソラジャ・クラビホのクラスに関しては以前ブログにしたと思うので、(お読みになりたい方はこちら)今回はマヌエル・ベタンソスのクラスについて。

マヌエル・ベタンソス。セビージャ、トゥリアーナ地区にアカデミア(学校)を持つ舞踊家、舞踊教師。ただ年間のほとんど海外でクルシージョ(短期講習会)を開講されているため、セビージャのご自身の学校で教えられることはほとんどありません。それだけ世界各国にたくさんの生徒さんがいらっしゃるということですね。日本には毎年夏にいらっしゃるのではないでしょうか?

  • マヌエル・ベタンソス舞踊アカデミーHPは こちら
  • 東日本大震災復興支援プロジェクト“SOMOS JAPON” 第1回マヌエル・ベタンソスへのインタビュー(2011年3月18日)は こちら

というわけで今回は9〜11月の3ヶ月間、10:00〜10:55初級クラス(カーニャ振付)、11:00〜11:55中級クラス(ガロティン振付)、12:00〜12:55上級クラス(タラント振付)を開講されています。タラントは以前習ったことがあるので、今回は中級クラスのガロティンに入ることにしました。クラスには20名ほど生徒がいるかな。細長いスタジオなので時々他の生徒をぶつかることもありますが、そこをなるべくぶつからないよう、みんな暗黙の了解でちゃんと踊っています。ベタンソスもクラスをグループ分けしたり、うまく教えています。

そう、教え方がうまい。

生徒として習う事もありますが、教授活動をする私にとって、教え方の上手い先生のクラスというのは大変興味があります。ベタンソスのクラスもそのうちの一つ。ただ生徒の立場として踊りを教わるのではなく、実は、萩原、その先生の教え方、生徒の反応というのもじっくり観察させて頂いています。それをそっくりそのまま真似するわけではないですし、それはできませんが、参考になる部分、いいなと思う部分は私なりに、どんどん自分の教授活動に取り入れています。踊るためには学ばなくてはならないように、教えるためにも学ばなくてはなりません。それを忘れたり怠るといい先生になれない。

というわけで、これまでのベタンソスのレッスンの中でいいなと思った部分をブログにしてみたいと思います。

①振付は3ヶ月で1曲完成。

週に1〜2回のレッスンが一般的な日本のクラスからすると早いペースかもしれませんが、セビージャのクラスは大体、月曜から金曜まで毎日1時間あり、ほとんどのクラスが1ヶ月で1曲を仕上げるペース。これはなぜかというと、1ヶ月で1曲仕上げて循環をよくすることで、新しい生徒が入ってきてもその都度クラスに入りやすくするため。いわゆる営利目的を重視した教授システム。つまり1曲仕上げるのに数ヶ月かかると、最初の月からいる人はいいかもしれませんが途中の月からクラスに入る人はすでに振付が進んだ状態で途中から入るのでついてゆきにくい。また振付が完成する前に帰国しなくてはならない場合も出てくるので、敬遠する留学生も多いわけです。先生だって食べていかなくてはならないわけだから、生徒が来ないと困る。だからセビージャにおいて1ヶ月で1曲完成、というタームは短期留学生にも一般的な学校にもちょうどよいわけです。

でも、しっかりきちんと学びたい人には、本当はもっと時間をかけて学ぶべき。教える側としても本当にきちんと教えたかったらそれなりに時間がかかるものです。ベタンソスは3ヶ月で1曲といターム。それでも生徒が習いに来るという自信と、自身の教授スタイルを貫いている所がいい。

・・・・そういえばトロンボのクラスは1年かかっても振付が完成しなかったな。でもどれだけ勉強になったことか。振付だけをとりたい人はどんどん去っていったけれど・・・。

②主に月水金が振付で、火木がテクニカ中心。

これも月曜から金曜まで毎日クラスがあるからこそできる教え方。でもほとんどのセビージャのクラスはこのような進め方をしていません。大体は毎日復習もしながら少しずつ振付が進んでいくパターン。このベタンソス方式、何がいいかというと、例えば月曜に振付した部分を火曜に復習するわけですが、単なる復習ではありません。振付の中にあるパソや動きを取り出して、左右両方でもできるようにする。舞台上で移動しながらでもできるようにする。回転しながらでもなど、バリエーションをつけてテクニカとしてきちんとバランスよく身に付くようにするわけです。

これは重要。先生によっては、振付の中で同じ側の足や身体の向きばかりを使う先生も多い。するとその振付だけを練習していると、反対側の動きができなくなる。右側は上手にできるけど、左側になると途端に動きがぎこちなくなったり、左足軸にしたパソの音はきれいに出るけど、右足軸になると音がちゃんとならないとか。

あるある。

これを長年続けると、踊りのバランスが悪くなるだけでなく、身体にも支障が出てきます。片側しか使わないわけですから。

そしてベタンソスの場合は大きな舞台で踊ることを想定して振付をしている場合が多いようです。それは先生の好みでもあると思いますが、習った振付をどこで踊るかによっても動き方というのは異なってきます。小さな場所で踊り慣れている人が大きな舞台で踊る時に、明らかに舞台空間を使えていない場合、その踊り手の技術がどんなに高くとも、どんなに素晴らしい振付でも、舞台ではいきてこないのです。大きな舞台で踊る方がよい、というわけではありません。それは先に書いたように好みなので。ただし舞台の大きさによって踊り方を、学び方を変えなくてはならないというのは、そうだと思います。

③月水金にはギター伴奏、金曜にはカンテ伴奏もつく

ギター伴奏といってもピンからキリまで。練習生のギタリストで、とりあえずギターの音は聞こえる、という人もいます。しかしベタンソスのクラスのギタリストは、あの舞踊伴奏のスペシャリスト、ミゲル・ペレスです。私の「ハモンは皿にのせるだけでよい」公演で招聘したあのミゲル・ペレス。クラスの生徒達は当たり前のように思っているのかもしれませんが、これは非常に贅沢な環境ですよね。その素晴らしいギターを聞けるだけでなく、さすがベテランギタリスト。ミゲルからマヌエルへの音楽的な提案というのは非常に勉強になります。それは時にはベタンソスの考える振付の流れと食い違うこともあるのですが、どちらかが正しいかという問題ではなく、いろいろな側面からその曲をとらえることができます。また、あえてベタンソスは生徒を集めて、自分がどのようにギタリストに曲の流れを説明するか、というその説明の仕方を生徒にデモンストレーションすることも。振付を習って練習したのはいいけれど、さて、ギター合わせになった時に説明できなくて困ったことはありませんか????(笑)

そして金曜日にくる歌い手も豪華です。今週と先週はインマ・リベーロ、先々週はミゲル・ピクオがやって来ました。ベタンソスはクラスでは歌いません。先生が歌ってくれればなんとなくイメージがつかみやすいという利点もありますが、プロの歌い手レベルに歌えるくらいでないと、先生の鼻歌みたいなクセをカンテ(フラメンコの歌)だと勘違いする生徒さんも出てきます。すると音階をなぞっているだけでコンパスがない歌のように、(厳密にはそれはカンテではなく、ただの歌。)それに聞き慣らされた踊りはやはり、振付をなぞっているだけでコンパスのない踊りになります。聞いているものが踊りに直結するわけですから。だからたとえ回数が少なくても、プロのカンテをきちんと聞くことが重要になってくると個人的には思います。美味しいものを食べることで舌が肥えるように、いいものを聴かなければ耳は肥えないのです。

というわけで、月水金は、必ず何があろうとも、歌い手とギタリストの位置近くに私は陣取ります。萩原、「てこ」でも動きません(笑)。マイクがあるので教室のどこにいても伴奏は聞こえますが、彼らがベタンソスと話す会話、それも重要なのです。ベタンソスがクラスとして皆に教える以外の会話。そこが学びの宝庫なのです。当然スペイン語力も必要。スペイン語が分からなくてもレッスンは受けられますが、学べる量も質も全く異なってきます。世の中気付いていない人が多いですが。そしてちゃんと早起きして、余裕を持ってクラスに着くこと。後から来て自分の好きな位置に立つ人も稀にいますが、私にはそこまでの勇気はありません(笑)。

まだまだいろいろありますが、今日はここまで。では皆さんよい週末をお過ごし下さい。

2013年9月20日 明日はまたヘレスへ。

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