この年末に清水アキラのことを想う。

Unknownみなさんこんばんは。いかがお過ごしでしょうか。

帰国して2週間程ですが、この間相当量のクラスをしていたように思います。あまりの忙しさに、でも今日ふっと今ガーナにいる夫のことを想い、家に帰る電車の中で涙が出てしまいました。あ!っと思ったのですが涙が止まらなくなってしまってさて、困った・・・のですが、ああ、ここは東京だからきっと電車の中で誰かが泣いていてもきっと気付かれないだろう、とそのまま涙を止めませんでした。セビージャだったらすぐにでも、少なくとも5人の人が「どうしたんだ?!」と声をかけてくるけどね。でも放っておいてほしい時だってあるから、東京の無関心というのはある時には有り難いのかもしれません。

その時、はっと思い出しました。

清水アキラのことを。

モノマネ四天王の清水アキラ。顔にセロテープをはって研ナオコとかのモノマネをする清水アキラ。あの清水アキラです。

あれは数年前の、やはり寒い日のことでした。

母がその前から「あー〝清水アキラ温泉〟に行きたいよー」と言い続けていました。(本当にそういう名前の温泉は多分ないと思うので、母の造語だと思います。母の中では、「清水アキラのショーが無料で観られる箱根の温泉ホテル」というつもりだったようです。)今も清水アキラはそのホテルでショーをやっているのか・・・そのホテルの名前も忘れてしまったけれど、数年前家族でその温泉ホテルに宿泊しました。

そのホテルの宿泊客は本当に清水アキラのショーを無料で観る事ができました。私達家族は相当前から並び前の方の座席。その他のお客さんは通路を挟んだ反対側に車椅子の老婦人とその娘さんと思われる女性。中年の女性グループ。会社の設立記念日のお祝いにこの〝清水アキラ温泉〟に社員を招待した社長、その社員達。開演時間が近づくにつれ大宴会場は満席近くになってゆきました。場内熱気に包まれる中、清水アキラのモノマネワンマンショーは始まりました。おなじみの淡谷のり子、研ナオコなど、わー、あれテレビで観たーというのが生で観られるモノマネのオンパレード。誰のモノマネしているのかよく分からなくても、すごかった。他の芸人も司会者も誰もいない、あのショーをたった1人で切り盛りしている、モノマネとモノマネの間の早着替え、ドーランの完璧な塗り方、どこをとってもプロフェッショナル。聞けばその温泉ホテルで毎日ショーを行ってすでに1年以上経っていたといいます。(数年前当時)ショーを毎日やっても、ホテル宿泊客相手だからといって手を抜かないその芸人魂に私は感服しました。

でも今日思い出したことは、あの日私の心に刻み付けられたことは、そのモノマネショーではありませんでした。小休止を挟んで後のトークショー。あれは一体なんだったのだろう。

トークショーが始まり、清水アキラはマイクを片手に舞台から客席に降りてきました。そして客席通路を歩きながら私の後ろにいた中年女性グループに向かって話しかけていました。そして私のそばの通路を通り過ぎるまさにその瞬間、清水アキラが言ったのです。「いいねえ!お母さんたち!今日はダンナがいないから羽伸ばしてるんでしょ」会場全体がどっと笑いに包まれる瞬間、私は見てしまった。私の横を通り過ぎた清水アキラの向こう側にいた車椅子の老婦人が、その瞬間涙をぬぐったのを。そして同じくその瞬間、隣の娘さんと思われる女性がそっと老婦人の肩に手をかけたのを。

・・・・あの老婦人は旦那様を亡くしてしまったのかも・・・。そんな中笑いを求めてこの清水アキラショーが観られるこの温泉ホテルに娘さんと二人でやってきたのかもしれない。私は勝手に他人に人生を推測し、勝手に胸を詰まらせました。せっかく楽しい思い出を作ろうと思ってここにいるのに、清水アキラのあの一言で台無しになってしまったのではないか・・・あの発言の後そのまま通り過ぎていった清水アキラの背中を見ながら、爆笑の渦に包まれるホテルの宴会場の中で、もう私は清水アキラのトークなんて聞けなくなってしまっていました。

ところが。その客席内でのトークが終わり、清水アキラが舞台にまた立つ。そして言いました。「今からね、お手伝いしてくれる人を探すからね。うーん、じゃあね、はい、そこの通路側に座っていらっしゃる方」そう指名されたのは、なんとあの車椅子の老婦人でした。恐らく100人近くいた大観衆の中でなぜ清水アキラはその老婦人を指したのだろう。あの言葉を放った瞬間、清水アキラは老婦人と私の間の通路を通過していた。つまり、老婦人が涙をぬぐったのを清水アキラは見ていないはずだ。だってその時清水アキラはもう背中を向けていたのだから。

これは偶然なのだろうか・・・。

その老婦人は清水アキラに名前を聞かれ、「N田さん」とおっしゃるその老婦人に清水アキラは進行上必要な小道具を持たせたりしていました。N田さんは嬉々としてお手伝いをしています。そのうち清水アキラが「N田さん」に「N田!!!!ちゃんと持て!!!」とかふざけて怒鳴り出し、でもN田さんも会場も笑いの渦に包まれている・・・。

そんな中は私はずっと考えていました。これは偶然なのだろうか・・・。

そしてショーの最後に清水アキラは言ったのです。「今日はN田さんに手伝ってもらったからね、ありがとうね、そのお礼に今日のショーの録音テープをN田さんにプレゼントするよ」会場全体の拍手。N田さんも拍手。少女のようにきゃっきゃっと笑っている。よかった。N田さんが笑っている。数分前に涙をぬぐっていたN田さんが。私はやっとほっとしました。

そして確信したのです。あれは偶然でない。清水アキラは絶対に、N田さんが涙をぬぐったのを見たのだ。いや、物理的に見える位置にはいなかった。どう考えても見える位置ではなかった。それはN田さんの通路をはさんだ隣にいた私が証明する。でも清水アキラは知っていたのだ。感づいていたのだ。自分の言葉でN田さんが涙を流したことを。どうして知ったのかは分からない。でも絶対に知ったのだ。そしてその瞬間にはフォローしなかった。清水アキラは自分が気付いていないフリをして、会場をぐるっと一周してからN田さんをお手伝いに指名した。そして最後にはN田さんを笑わせた。心の底からの笑顔。少女のような笑顔。

なんという芸人だろう。それを〝芸〟という。〝芸〟とはそういうことだ・・・・

ショーが終わり、大爆笑の後の大歓声と割れんばかりの拍手が鳴り止まない中、私は一人違う世界で拍手をし続けた。ただただ拍手をし続けた。

あれは数年前の、やはり寒い日のことでした。

2013年12月29日 清水アキラ、って呼び捨てにしちゃったけどいいかな・・・

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