元旦、山本譲二「みちのくひとり旅」から考えた。

新年明けましておめでとうございます。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

新年は日本の両親と妹夫婦、姪っ子と一緒に過ごしました。今日は両親と3人でイオンのセールに行ってお寿司を食べるぞ!

さて。昨晩見たテレビ番組から一考したことがあります。ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、歌のうまい芸能人と、その歌の本家の歌手がカラオケ対決するというもの。ちょっとしか見ていませんが、気になったのは山本譲二の「みちのくひとり旅」。この曲に挑んだのがU字工事(というお笑い芸人、らしい)。上手でした。でも、へー上手いね。そこで終わってしまう。何かが足りないんだよな・・・。

ちなみに「みちのくひとり旅」の歌詞はこんなです。

「みちのくひとり旅」 /作詞 市場馨

ここで一緒に 死ねたらいいと
すがる涙の いじらしさ
その場しのぎの なぐさめ云って
みちのくひとり旅
うしろ髪ひく かなしい声を
背でたちきる 道しるべ
生きていたなら いつかは逢える
夢でも逢えるだろう

(中略)

たとえどんなに 恨んでいても
たとえどんなに 灯りがほしくても
お前が俺には 最後の女
俺にはお前が 最後の女
たとえどんなに つめたく別れても
お前が俺には 最後の女
たとえどんなに 流れていても
お前が俺には 最後の女

うーん。U字工事は「みちのくひとり旅」を上手に歌っていることには変わりないんだけど、「みちのくひとり旅」を聞いたという充足感がない。何が足りないんだろう。人生経験?感情?内側から出てくる何か?

・・・うーん、これってフラメンコと一緒。ただ単に上手に踊られる、弾かれる、歌われるフラメンコを観た時、聞いた時と同じ・・・。

萩原がうなっている間に、今度は本家本元の山本譲二が「みちのくひとり旅」を熱唱!・・・と思いきや、ゲストの1人(確か作曲家か誰か)の発言から意外な展開に。

「譲二さんはカラオケでは点数出ないんですよ」

それだ!!!萩原は思わずひざをたたきそうに。そこなんだよ!重要な所は!!!

この番組ではカラオケの機械が発声や音程など4つの項目を元に、歌われた歌を機械化・数値化し得点を出す。本物の、プロの山本譲二がどうして自分の歌を歌って点数が出ないのか。問題はそこにある。山本譲二が山本譲二たる、「みちのくひとり旅」が「みちのくひとり旅」たる何か、それは点数に置き換えることは決してできない。なぜなら上手い下手、正しい・間違っているという観点で計ることができないからだ。でも、そこに歌の、もっと言えば全ての芸術の核がある。その核があるこそ、山本譲二の歌う「みちのくひとり旅」になる。誰かが上手に歌う「みちのくひとり旅」ではなく。

そうなんだ、譲二!だからこそ歌ってくれ!山本譲二の「みちのくひとり旅」を!

それまでぼやんとしていたテレビ画面が急にくっきり見えてきました。譲二が歌い出す。そうそう、これだよ、「みちのくひとり旅」は!

・・・・と思ったのもつかのま。あれ?こんなだったっけ?山本譲二って・・・もっと、やーまーもとぉおおお じょぅうううううじぃいいいいいいいい!!!! って感じじゃなかったっけ?なんか今のはただの「やまもと じょうじ」って感じ・・・・萩原はすっきりしない。その理由が本人の口から飛び出た。

「いつもは〝がなる〟んですけど、それはやめておこうと」

1450206_10152166784716228_1346712530_n 1512551_10152166804621228_224664068_n つまり、その〝がなり〟はカラオケマシーンには評価されない、むしろ減点対象になってしまう。だから今日は高得点を出すためにその〝がなり〟をやめたのだ。そして今日の〝がなり〟なしの歌い方と普段の〝がなり〟ありの歌い方を実際に比べてやってみせる。(写真参照。ブログでは歌い声は表現できないので、テレビ画面テロップの字体でご想像下さい。笑)あー、そういうことなのだ。本人も、普段の歌い方ではこの番組では(カラオケ得点マシーン)点数が出ないことが分かっている。もしそれで挑戦者の、たとえ演歌がうまいとはいえプロでない人間に本家本元の山本譲二が負けたら、それはプロ演歌歌手としての沽券にかかわる。近所のカラオケボックスで歌っているのではない。2014年元旦、日本国民がテレビの前でその勝敗を固唾を飲んで見守る前で歌うのだ。ここは歌手人生をかけても負けるわけにはいかない。

そこでとった決断が昨日の譲二のあの歌だった。分からなくもない。いや、よく分かる。プロはそれで食べていっているのだ。プロとはそういうものだ。それでも、萩原個人としては、たとえ点数が出なかったとしても、たとえカラオケマシーンに評価されなかったとしても、譲二にはじょぅうううううじぃいいいいいいいい〟として歌ってほしかった。それを貫いてほしかった。ただの〝じょうじ〟ではなくて。

結果は挑戦者U字工事が88.393点に対し、山本譲二は90.292点で当然山本譲二の勝利。1.899点の差というのが大きいのか小さいのかはよくわからない。でも譲二にとって重要なのは勝つことだったのだろう。自身の歌を貫くことより、それを選んだのだろう・・・。

・・・・そうなんだよ、これも実はフラメンコと同じ。点数や評価や観客の受けを気にして踊る・弾く・歌う。そうすることである程度の見返りはあるかもしれない。その踊り・ギター・歌は一時もてはやされるかもしれない。でもそれが真実でない限り、その人自身でない限り、それは表層を浮いているに過ぎない。深い所まで潜れない。ましてや人の心の奥になんてとてもじゃないけど届かない。点数や評価や受けを気にせずに、というよりそういう観点すら持っていない、その人自身がフラメンコそのものという人。そういう人に1人でも多く出会いたい。

今年も。

2014年1月2日 がんばれ。箱根駅伝。

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