萩原淳子のヘレス・フェスティバル2014 鑑賞記②

0001535106_560x560_jpg000 ベレン写真 写真

  • 2月24日(月)Los Invitados ベレン・マジャ舞踊団 ビジャマルタ劇場

いやーすごかった。ベレンの舞台作品って、マイテ・マルティンとの「Flamenco de Cámara」以外は今まであまり好きではなかったのだけど。これはすごかった。正直言って、最初にプログラムを見た時のゲストアーティスト達の名前でうへっと思ってしまった。マヌエル・リニャン、カルメン・リナーレス、ホセ・バレンシア、トマス・デ・ペラーテ、ホセ・アニージョ。一般的にゲストアーティストって、一人か多くても二人でしょう。しかも難しいのはゲストアーティストの扱いによっては、そのゲストに主役が食われてしまうこともある。特上のゲストアーティストをずらっと並べちゃって、ベレン大丈夫かな・・・なんて心配したのですが、杞憂でした。

この公演で踊られたベレンの踊りはこれまでの舞台でも踊られていたものが多い。前述のエバの公演の時のように「ああ、観た」「それも前に踊ってたよね」とちょっと思ってしまった部分もあったけれど、それを完全に払拭する舞台作り。やっぱりパートナーかな。ベレンの人生のパートナー「ダビ・モンテーロ」。この人が舞台監督となっている。やはり舞台作品というのは、ただ踊り手がいいだけではダメなんだよね。舞台は総合芸術だからどのように見せるのか、その裏方ががっちり踊り手と組むことができれば素晴らしい舞台作品になる。でもそれが難しい。なぜならまず舞台監督というのは、フラメンコの舞台を創るのであれば、フラメンコを理解していなくてはならない。フラメンコを愛していなくてはならない。そして主役の踊り手の踊りも理解しなくてはならない。その踊り手が何をやりたいのか、それも理解して具現化してゆかなくてはならない。それを全部兼ね備えた人、それがその踊り手にとっての理想の舞台監督。

・・・自分にとってのそんな人がいるのか?特に日本で。だから難しい、日本でフラメンコの舞台を創るのは。話が日本になってしまったけど、その意味でダビ・モンテーロというパートナーを持つベレンは恵まれている。やっぱり舞台は総合芸術。

そしてこの公演の素晴らしいのは、その総合芸術としての舞台が素晴らしいだけでなく、ゲストアーティストによるフラメンコを存分に出し尽くしたところにある。このバランスというのが難しい。舞台作品としては面白いかもしれないけれど、フラメンコ性に欠けるよね、という舞台はよくある。アーティストはいいんだけど、舞台作品としてはイマイチだよね、というのもよくある。だからこのバランスは本当に難しい。でもこの「Los Invidtados」はやってのけてしまった。バランスをとるどころか、両方を最高の状態で兼ね備えてしまった。だから素晴らしい。

マヌエル・リニャンのバタ・デ・コーラとマントンのカラコレス。これ、こんな風に踊られちゃったらもう誰もバタとマントン使えないよね、ってくらい素晴らしかった。バタとマントンは女性の踊りでしょ、と伝統を重んじる方はおっしゃるのでしょうが、これだけ踊られたら脱帽です。バタで有名な主役のベレンでさえかすんでしまう程・・・でも二人での踊りは趣向が凝らされていて素敵だった。同じコンセプトの踊りをマヌエル・リニャンの替わりに別の女性舞踊家がベレンと組んで踊っていたのを観たことがあるけれど、全然違って見えた。やはりマヌエル・リニャンだからこそ、ベレンと二人で輝き合うのだろうなあ。

ホセ・バレンシア。またまたこの歌い手。この日はシギリージャ。「Ole」が涙声になってしまった萩原でした。それ以外に言葉なし。

そしてゲスト・アーティスト扱いではないけど、ゲストに引けをとらない、もしくは最高に輝いていたのがラファエル・ロドリゲス。この人のギターは一音がすでにフラメンコなのだ。1曲弾く必要がない。1音だけでよい。極上のフラメンコの音。

最後に登場したスペシャル・ゲストアーティストはカルメン・リナーレス。ベレンのお母さんである亡き、カルメン・モーラの映像から(そこにはカルメン・モーラに歌う若き日のカルメン・リナーレスも映っている)、本物の、現代の、舞台上のカルメン・リナーレスへ。タラントとタンゴ。それは母の十八番でもあり、娘の十八番でもある。私が最近観たベレンの舞台が、亡き父マリオ・マジャに捧げた舞台だった。今日の舞台は母カルメン・モーラへの舞台でもあったのかなあ。

  • 舞台上のベレン・マジャとカルメン・リナーレスの映像は こちら
  • ちなみに、舞台公演中で使われたカルメン・モーラの有名なタラントの映像は こちら① こちら ②

何度観たことか・・・この素晴らしいカルメン・モーラのタラントとタンゴ。ベレンはきっと、もっともっともっと観たんだろうな。お母さんのタラントとタンゴ。フラメンコ史上その名をとどろかすカルメン・モーラのタラントとタンゴ。そんなことを思いながら、舞台上で踊るベレンのタラントタンゴを観て感動した萩原でした。

これだけのアーティストを全員日本に連れてゆくのは金銭面で難しいと思う・・・・だから日本公演というのは難しいんじゃないかな・・・。でも今年のセビージャのビエナル(セビージャで2年に1度開催される世界的に有名なフラメンコ・フェスティバル。期間中は毎日セビージャ内の劇場等でたくさんのフラメンコ公演が上演される。今年は2014年9月12日から10月5日まで。ビエナルHPは こちら)で再演されるような気がする。これだけの素晴らしい舞台がヘレス・フェスティバルで終わるわけがない。もし、このブログをお読みになった方で、セビージャのビエナルにいらっしゃる方はこのベレンの「Los Invitados」という公演は要チェックです。萩原、もう一度観たいです。ここまで舞台作品としても、フラメンコとしても完璧に近い舞台作品はそんなにお目にかかれないから。

おめでとう、ベレン!!!!

写真:Miguel Angel Gonzáles

2014年3月2日 セビージャにて。

Comments are closed.