ラファエル・リケーニ


parque_marialuisariqueni
みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

昨晩セビージャのマエストランサ劇場でのラファエル・リケーニのコンサートに行ってきました。何から書いていいのか・・・コンサート中私は涙が止まらなかった。家に帰ってもずっと泣いていて昨日は泣きながら寝ました。今思い出してもまた涙が出て来そうです。

ラファエル・リケーニ。1962年セビージャ生まれ。フラメンコギターの歴史に名を残す、偉大なギタリスト。私が彼の名を初めて耳にしたのは、まだフラメンコを始めて2年半くらいの時、何も知らないど初心者の頃でした。そのど初心者にも関わらず、当時師事していたAMIさんが(正確には、当時AMIさんはセビージャに住んでいらして一時帰国の際のクルシージョに私は通っていた)、AMIさんと森下祐子さん、長谷川典子さん(現 初瀬河典子さん)の舞台に抜擢して下さったのです。東京での老舗タブラオ「カサ・デ・エスペランサ」さん25周年記念の舞台公演「LAS ENAMORADAS DE SEVILLA」でした。本当に何も知らず、踊りの振付を覚えて練習するのに必死。しかも出演者の皆さんの会話の意味が全然分からない。ちんぷんかんぷん。そのくらいフラメンコに関して何も知らなかった。でも、今ここで会話されていることはとても重要なことに違いない、当時の私はそう思って、どんな時でも、たとえそれが皆さんにとりとめのない雑談なのかもしれなくても、周りの会話や気配にアンテナを張り巡らせていました。

その時だった。ラファエル・リケーニの名を初めて耳にしたのは。

練習の合間の休憩時間にAMIさんが歌い手の瀧本さんにおっしゃいました。確かこんな言葉だったと記憶しています。

「たきやん、あのね、この間マリア・ルイサ公園を散歩していたら、本を読んでいるラファエル・リケーニを見かけたのよ。もう、私、嬉しくって、本を読むまで回復したのかなって」

その瞬間、「ラファエル・リケーニ」という人物の名が私の頭にインプットされたのを今でも覚えています。絶対この人の名前は忘れちゃいけないって。そして同時に「本を読むまで回復」・・・・という言葉を自分の頭の中で整理し始めたその瞬間、瀧本さんがおっしゃった言葉。

「その本、逆さまやったかもしれんでー」

AMIさんは「もうやだー、たきやんー、こんないい話なのになんでそういうこと言うの?」と笑いながらおっしゃっていましたが、その間私の脳みそはフル回転していました。“ラファエル・リケーニ”、“本を読むまで回復”、“その本、逆さま”???一体どういう人でどういう状況なんだ?そしてその時に、こんな声が聞こえました。(誰がおっしゃったのか覚えていない)

「もう弾くのは難しいかなあ」

・・・ここまでです。私が記憶している会話の内容は。もしかすると多少違っているかもしれません。もう20年近く前の話ですから・・・。

そう、ラファエル・リケーニが健康上の理由で舞台から遠ざかって昨年のセビージャでのビエナルで復活する(「Y Sevilla..」という公演内の演奏でリケーニはヒラルディージョ賞を受賞。)まで20年近くの歳月が経っているという。・・・なんという長い歳月なのだろう。

あの時何も知らずに彼の名をインプットした私はそれから4年間必死に働き、お金を貯めてセビージャに渡る。いろいろなことがあった。辛い事、悲しい事、それを誰にも言えなかったこと。長く留学すればするほど、短期の滞在では分からない苦しみというものが生まれる。(もちろん喜びもあるけど。)先の見えない、本当に長い間・・・そんなことを思い出しながら、昨晩リケーニのギターを聴いていました。

リケーニの音はセビージャそのものだった。どんな音がセビージャなのか?と言われても上手く言えない。セビージャの光、香り、空気それがリケーニのギターに溶け込んでいた。いや、それらがリケーニのギターを創り出していた。セビージャのありとあらゆる神々しいものが、リケーニのギターに降り注いでいるようだった。彼の音楽を全身で浴びながら、ずっと苦しくて苦しくてどうしようもなかった感情が、リケーニの音で全てが浄化されていくように私は感じました。そして同時に思った。リケーニは、凡人には絶対分かりっこない、天才ゆえの苦しみの中で20年間葛藤してきたのかもしれない。私ごとき人間がそう思うのはおこがましい。そんなことは分かっている。でも今、ここに私達の前にいる、ギターを弾いている。そう思ったら涙がとめどなく流れた。そして感謝した。ラファエル・リケーニというギタリスタがこの世に存在すること。こんな私でもそのギタリスタと同時代に生かせて頂いていること、そして今、自分がまだセビージャにいること。昨晩マエストランサ劇場にいられたこと。

あの時、AMIさんの会話で「ラファエル・リケーニ」の名を耳にした時から、ずっとそれはつながっていたのかもしれない。

昨晩の公演の名が「PARQUE DE MARIA LUISA」(マリア・ルイサ公園)だったのは偶然ではない、そう私は思っている。

本当に、ありがとう。ラファエル・リケーニ。

2015年11月22日 セビージャにて。

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