アメリカ人の学生にフラメンコを教える。ステレオタイプについての考察。

_DSC2090_DSC2598_DSC2383_DSC2973
みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

先日興味深いクラスの依頼がありました。フラメンコを全く知らない18歳前後のアメリカ人の学生12名にフラメンコを1時間だけ教えるというもの。そもそも、なんでそんな依頼が私のところに来るわけ?・・・・でも理由を聞いて納得。なんでも彼らはセビージャにあるアメリカ人学校に留学している学生さん達らしく、文化を学ぶクラスの中で「文化のステレオタイプ化」というのをテーマに学んでいるらしい。「文化のステレオタイプ化」・・・・知りもせず深く考えもせず、その文化を先入観や固定観念で決めつけてしまうこと。例えば日本といえばサムライとゲイシャ。スペインといえば闘牛とフラメンコ。そしてフラメンコといえば、踊るのはスペイン人やヒターノ(ジプシー)。あるあるあるある、100連発。でもね、実際にはセビージャには日本人のフラメンコ舞踊家だっているんだよ〜んという現実から、ステレオタイプって何だろう?と学生さん達に考えてもらうのが狙いとのこと。なるほど、それでわたくし萩原淳子がこのクラスに抜擢されたのでした。このテーマは偶然にも実は昨年の夏に東京キッド・アイラック・アートホールで開催したソロ公演「人はなぜ、絵はがきの風景を探すのか?」と全く同じ。常々私が直面するテーマであり、考えていたテーマでもあり、まさにドンピシャの人選というわけで喜んでお引き受けしました。

でもその後すっごく考えた。「フラメンコを全く知らない18歳前後のアメリカ人の学生12名にフラメンコを1時間だけ教える」というのは結構難しいんじゃないか。彼らはフラメンコに興味があるわけでもなく、もちろん私に習いたいわけでなく、授業の一環として、先生が連れてきた日本人バイラオーラにフラメンコを習う。・・・というか人によっては習わされる・・・?しかも1時間だけ。これが例えば何回かクラスがあれば少しずつフラメンコの魅力を伝えていったり、積み重ねて教えることもできるけど・・・しかも18歳前後のアメリカ人なんて・・・授業中にガムをクチャクチャ噛んでたり、足を机に投げ出してリンゴ食べたりしている若者達かもよ・・・?!なんて思い、あ!!!!それこそステレオタイプな発想!!!といかんいかんと自分を戒める(笑)。スペイン人の踊り手さんにちらっと聞いてみると、「どーせフラメンコ知らないんだから、分かりやすいCDかけて踊らせればいいんだよ」とか言われるし・・・。なんだそりゃ、と思ったけど、そういう発言が出る彼女なりの見解も想像できなくはない・・・

1821377_Antonio_Mairenaどうしようといろいろ考えて、でもフラメンコであることは外せない・・・ということでアントニオ・マイレーナのCDの中に入っているタンゴ・デ・カディス(カディスのタンゴ)を音源に選んでみました。アントニオ・マイレーナ(左写真)。好き嫌いは別として、アントニオ・マイレーナを聞かずにフラメンコを学ぶということはありえないと私は思っています。もちろん他にも聴くべき歌い手はたくさんいるけど。いずれにせよ今回のクラスの学生さんがフラメンコに興味があろうが、なかろうが、フラメンコの音源を使うことは私にとっては譲れない要素。タンゴにしたのは、1時間だけ学ぶのであれば、ブレリアのように複雑な複合リズムでなく分かりやすい4拍子。ちなみに初心者がよく最初に学ぶセビジャーナスは意外と難しいと私は思っています。じゃあタンゴが簡単かといえば、実はすごく難しいのだけど、でもリズムも動きもタンゴが一番とっつきやすいかなと思ったので。

クラスではパルマからまず教えてリズムを理解してもらい、簡単な動きでそのリズムを身体で刻んでもらう(マルカール)。パッとそれができる生徒さんもいれば、全くリズムを取れない男子も約2名。こちらが教えた動きを勝手に改造して(?)自己流に面白く踊っている個性的な生徒さんもいた。まあ皆さんそれぞれだったのですが、マルカールのパターンといくつか教えて、しばらくしてから上記のアントニオ・マイレーナの音源で踊ってみる。フラメンコ舞踊的には、とかタンゴのコンパスとは・・・etc細かいことを言えばキリがないのだけど、1時間ぽっきりのクラスだし、まずは楽しんでもらおうとハレオもガンガンかけ・・・最初のうちはやらされてる感がそのまま顔に出ていた生徒さんも何人かいたけど、だんだんみんな笑顔になってきていい雰囲気。私もかなり楽しくなってきました。

特に振付をしたわけではないので、カンテ(フラメンコの歌)に合わせて先に学んだマルカールのパターンをいくつか踊ってゆく。思ったよりも余裕しゃくしゃくでついてくるので、「難しくないみたいだね」と声をかけると、一人の生徒さんがこんなことを言いました。

「動きをいつ変えるのかが難しいです。」

!!!!!!!!!

なんて素晴らしい生徒さんなんだ!!!萩原、感動。よくぞ気づいた。そこなんだよ、フラメンコは。そこにフラメンコがあるんだよ!!!

「先生によってはこの動きが何回で、その次左でその次右で・・・・と教える先生もいらっしゃるけど、私はそうは教えないの。カンテをよく聞いて。カンテのフレーズが変わる所で動きも変えているの。でも私のやっているタイミングが絶対正しいわけではないの、重要なことはカンテを聞くことなの。感じるの、あなたが。」

・・・この私の回答が理解されたのかどうなのか、分からない。でもこの本質を突いた発言には私も本質で答えなくてはならないと思ったから。

その後何回か続けて、後は二人組になって向かいあって自由にやってもらった。私がクラスで教えたマルカールだけじゃなくて、自分たちで考えたものでもいい、感じて出てきたものでもいい。重要なことは私の真似っこにならないこと。そこから自由になって自分自身の個性を光らせ始めた生徒さんが数名。あの子達はこれからも続ければなかなか味のある踊りをするようになるかもしれない。(ちなみに私がフラメンコを学び始めたのも18歳の時でしたからね、これからの人生何が起きるかわかりません。)最後の方は飽きちゃった生徒さんもいたみたいだけど(笑)、そんなこんなで1時間のクラス終了。楽しかったなあ。私の方こそ勉強させて頂きました。こんな機会を頂けて本当に感謝です。

「どうせ初心者だし、どうせフラメンコ分からないだろうし」って思うことも、ある意味初心者の生徒さんをステレオタイプ的に決めつけているのかもしれない。むしろ生半可に知識や年数だけを振りかざして上級者のつもりでいる人よりも、よっぽど本質を見抜く目を耳と心を持っているのかもしれないのだから。

教える時もそう、踊る時もそう。スペインでもそう、日本でもそう。相手が誰であろうが、フラメンコでありたい。
そう、改めて自分を振り返った1日でもありました。

クラス風景写真:アントニオ・ペレス

2016年10月23日 セビージャにて。

Comments are closed.