私はフツーに過ごしております。(笑)昨日のイブは東京でのクルシージョ、本日25日はお休みでしたが明日アルハムブラさんでのライブに出演しますので練習したり、衣装をチェックしたり特に変わりはなく・・・それも何かなと思って昨日ケーキを買いましたが。そんなところでしょうか。
さて、帰国前日にレブリーハTVの番組「Chaslas al compás(チャルラス・アル・コンパス)」が主催するサンボンバの収録に今年も参加させて頂きました。サンボンバというのは簡単に言ってしまえば、クリスマス・ソングを歌うフィエスタ、宴会みたいなもの。歌詞はイエス・キリストの生誕にまつわるものです。サンボンバではこの歌がフラメンコのブレリアのリズムに乗って歌われ、踊られ、ヘレスのそれが有名。そしてレブリーハにもその土地に根付いたサンボンバがあります。
ちなみに昨年の収録の様子はパセオフラメンコさん12月号に写真が掲載されています。(アントニオ・ペレス撮影)フラメンコジャーナリストの志風恭子さんの解説によるサンボンバ特集で、素晴らしい記事となっています。ご興味のある方はバックナンバーで是非お読み下さいね。
パセオフラメンコさんHP→http://www.paseo-flamenco.com/monthly/backnumber.php
今年のサンボンバも1部がビジャンシーコ、2部がフィン・デ・フィエスタのブレリアとなっていて、私は2部に出演させて頂きました。テレビ収録とあって、1部のビジャンシーコの時には歌い手たちが何度もやり直し・・・昨年は滞りなく進んでいた記憶がありますが・・・多分一人がちょっと失敗したとか思ってやり直しを始めると、次の人も「じゃあ私も」と思ってやり直しが連鎖するのかなあ・・・1部の時は鑑賞席から拝見していましたが、周りの人たちはさすがにうんざりしてきた様子。私の隣に座っていたペーニャ会員のおじさまは「フラメンコは1回ポッキリだからフラメンコなんだよ」とズシっと一言。さすが愛好家のおっしゃることには重みあり。
そして1部が終了し、2部のフィン・デ・フィエスタ。1部の間に冷え切った身体・・・でもコートを着て出演するわけにもいかず、が、それは想定内の冷えだったので①ヒートテック ②貼るホッカイロ ③毛糸のパンツ の3種の神器(?)での出演。準備万端です!真冬の夜に戸外で行われるサンボンバに必要不可欠な焚き火の助けもあり、結局全然寒くなかった。あーよかった。フィン・デ・フィエスタでは上記パセオフラメンコさんの表紙にもなった「フェイート」のアルテ炸裂の一踊りで開幕。本当になんでもないことが、この人を通すとアルテになる。真のアルティスタです。コンチャ・バルガスの娘カルメン・バルガスもその存在感で他を圧倒。イサベル・ラ・マレーナの歌も素晴らしい。名前がわからないけど、本当に心にしみるブレリアを歌った人もいたなあ。あの時はみんなシンとして聴き入っていたなあ。老若男女問わず、歌い、弾き、踊る。レブリーハのアルテの層の厚さがうかがえます。若手の中心となっているのはフアニートくん。この人のコンパス、パルマ、踊りは本当に素晴らしい。
わー楽しいなーと思っていたら、気付いたら参加者でもあるテレビ司会者が後ろにいました。「次の歌い手が歌う時に、踊ってね」と。さすがテレビ番組です。フィエスタとはいえ段取りがあるという。(笑)本当は自分が踊りたいなって思った時に自然に出て行くのがフィエスタというのだと思うけど・・・。しかしこれはテレビ収録ですからそうも言えない。そして自分の気が乗ろうが乗るまいが、その瞬間にパッとスイッチが入らなくては、というより入れなくてはなりません。
さあ、出番です。担当の歌い手が歌い始めました。1つ目の歌をそのままパルマを叩きながら聞いています。すると前に座っていたベテラン女子が「これからアンタの番よ」と教えて下さいました。はい、了解です!と答えつつ、でもいきなりは踊らないよね、歌1つは聞きたいよね、と心の中で思う。1つ目の歌が終わり、さて2つ目から出るかと思っていたら、なんとその歌のレトラ(歌詞)が私が大・大・大嫌いなレトラだった!!!
そのレトラとは・・・
Y er Chino como era chino
no entendia na de letras
se monto en una carreta
se l’atasco en el camino
vaya Chino sin verguenza
chino(チノ)、直訳すると「中国人」という意味の言葉ですが、状況やニュアンスによっては東洋人全般への蔑称にも使われます。chinoというのは男性形で、中国人女性や東洋人女性はchina(チナ)となるのですが、この言葉はセビージャ留学当初、毎日のように浴びせられた言葉でした。今でこそ道端で侮蔑されることはほとんどないですが、なきにしもあらず。本当に嫌な言葉です。スペイン人からすると中国人も日本人も韓国人も見分けがつかないということで、全部まとめてchinoとかchinaとか呼ぶのでしょうが、大体それ自体が差別だと思うし。差別意識がなくそう呼んでいる人もいるのでしょうが、それもおかしいなと思うのです。知り合いの学校の先生が平気で言っているのを聞いたこともあります。指摘したら逆ギレされたり、意味がわからなくてポカーんとされたり・・・
話はちょっとそれましたが、歌詞の内容はざっと訳すと、
〝中国人(東洋人)はやっぱり中国人(東洋人)だから手紙の意味が分からなかったんだよ。だからカートに乗っちゃって道は渋滞。全く、これだから中国人は。(東洋人)この恥知らずが。〟
みたいな内容。(私はフラメンコ研究者じゃないですから違っているかもしれません。正式な訳をご存知の方は教えてください。)
あと、chinoという言葉は小石という意味もあります。だからその意味でも解釈できるのかもしれないけど・・・でも個人的な長年の経験からこのchinoという言葉にすごく敏感に反応してしまうのです。その言葉自体が嫌い。中国人が嫌いなのではないですよ。一部のアンダルシア人が差別意識から、もしくはそれを本人が意識していなかったとしても潜在的なそれから発せられる際のあの独特の音、その響きが嫌い。状況によってはそういう悪い意味で使われないというのは頭でわかっていても、それでも嫌なんです。
それから、上の訳では「手紙」と訳してみたけど、この原語は「letra」レトラ。つまりフラメンコの歌詞という意味でもあります。そう考えると「中国人(東洋人)はフラメンコの歌詞がわかってないんだよ」と歌っていることにも・・・。昔あるペーニャ公演に日本人留学生がお客さんとしてたくさん来た時(私もその中にいた)、歌い手がこのレトラで歌いました。私はぎょっとしちゃって、この人わざと歌っているんだろうか・・・と心が凍った記憶があります。ほとんどの日本人留学生は気づかなかったみたいですが、終演後セビージャに長年在住されてらっしゃる日本人女性が「あんなレトラを歌うなんて信じられない!!!」と激怒されていましたっけ・・・。
ちなみにこの歌詞は伝統的に歌い継がれているもののはずです。誰が作詞したのかは分かりませんが、恐らく作詞した人はそこまで考えていなかったのかもしれないし、歌っている本人もたまたまその歌詞が出ただけなのかもしれません。でも、私はこの歌詞が嫌いなんです・・・
話は長くなりましたが、というわけで、このレトラでは絶対に踊らん!!!意を決し、後ろでパルマを叩き続ける私に、先述のベテラン女子がまた「ほら、出番だよ!」と。・・・・そうなんですけど、このレトラでは踊りたくない!でもそんなことは言いたくないし言えないし。テコでも動かない私にベテラン女子はちょっとムッとしたご様子。でも絶対踊らない、このレトラでは・・・・・なんとかそのレトラが終わるのとそのベテラン女子の無言の圧力をやり過ごし、3つ目のレトラでようやく踊りました。任務完了でホッ。
それからしばらく歌や踊りが続き、幕開けをしたフェイートがやはり大トリでひと踊り。これがまた素晴らしいアルテ。そして皆を誘って今年のサンンボンバは終了!いろいろあったけど、いい歌も聴けてよかった!楽しかった!そもそもこんなレブリーハの方々の中に交えて頂けるだけでもありがたいです。みなさん本当にありがとうございました!!! また来年も呼んで頂けるといいなあ。
写真:アントニオ・ペレス
2016年12月25日