みなさんこんにちは。いかがお過ごしでしょうか?
先日のブログでお伝えした機内での“珍事件”です。↓
2011年5月10日のことだった。場所は成田発チューリッヒ行き“スイス・インターナショナル・エアラインズ” LX161便、機内。乗客全員が搭乗し、あとは離陸を待つのみ。私はエコノミークラスの前から2列目、窓側の席に座っている。機内中央、真ん中の列の一番前に座っていると思われる日本人男性がブツブツとつぶやいている。
【登場人物】
- 男
- 男の隣に座る男性
- 日本人女性若手客室乗務員 以下「若ス」(チュワーデス)
- 日本人女性先輩客室乗務員 以下「先輩ス」(チュワーデス)
- 若手警官
- ベテラン警官
- 刑事
- 私の隣の乗客
- 他の乗客
- 萩原(私)
男:「死ね、ハゲ、ハゲ、死んでしまえ。」(ブツブツつぶやいている)
若ス:「お客様、お静かにお願い致します。」(直立不動、完璧な笑顔)
男:「死んでしまえ。だって、話しているんですよ。私は注意しただけです。この人達しゃべってるんです。このハゲ、死ね!」(声がどんどん大きくなる)
萩原、伸び上がり斜め前方で何が起きているか観察。窓側の席からのためよく見えないが、確かに男の隣に座る男性の頭部はつるりとしている。その“つるりさん”に男はののしっている。
若ス:「お客様、機長に相談させて頂きます。」(同じく直立不動、完璧な笑顔)
若ス、機内の連絡用電話で話し始める。その間、男は隣のつるりさんに「死んでしまえ」と罵倒し続ける。つるりさんの顔面につばを3度吐く。つるりさん無言。微動だにしない。しばらくして先輩女性客室乗務員(以下、「先輩ス」)登場。
男:「隣、トーキングしてたの。私が注意したのに、このハゲ、逆ギレしたの。イフ・アイ・・・アイ・アム・ミート(自分を肉と仮定してどうする?すかさず心の中でツッこむ萩原)●△×★÷*%・・・・(その後意味不明の英語)」
先輩ス:「お客様、英語の方がよろしいですか?」
男:「イエス・アイ・キャーン!」
先輩ス:「Aaodifu fdji aeruio afdiouoi popoivcx・・・ペラペーラ、ペラペーラ。」(流暢な英語でまくしたてる。早すぎて萩原には理解不可能)
若ス:「お客様ー、他の方は皆様お静かにされていますからねー。大声出されているのはお客様だけですよー。」(やたらと語尾を伸ばす。そして相変わらずの完璧な笑顔)
男:「だから、日本語わかる人呼んでよ!!!」
先輩ス:「他200名のお客様にご迷惑がかかりますので、降りて頂けますでしょうか。さ、参りましょう。」
若ス:「飛行機遅れていますからねー。」(語尾を伸ばすのは作戦か?)
男:「警察呼べ!!!」
若ス:「呼んでますからねー。」(やはり作戦らしい)
先輩ス:「参りましょう。お名前は・・・ハセガワ様ですね。さ、ハセガワ様、参りましょう。」
男:「警察呼べ!!!」
先輩ス:「呼んでますから。他のお客様を定刻通り出発させる義務が私にはあります。そのためにはハセガワ様を降ろさなくてはなりません。行きましょう。行きましょう!!」
男:「暴力ふるう気か!」
先輩ス:(冷静に)「さわっていません。」
若ス、完璧な笑顔に冷たさが加わり、直立不動のまま男を見下ろしている。というより、見下している。先輩スとともにその場を離れる。代わりに外国人男性客室乗務員が見張りに来る。顔はいいが、非常時にはあまり役に立たなそう。萩原、時々腰を浮かして男の様子を伺うが、あーよく見えない。男の独り言だけ聞こえる。
男:「オレが降りたらこの飛行機は墜落、ツ・イ・ラ・ク〜♪チューリッヒでどかーん!!!降りててヨカッタ〜♪」(それも困るな、といらぬ心配をする萩原)
しばらくして警官登場。若手警官2人と年配の警官1人の計3人。制服には「千葉県警 POLICE」とある。
萩原:「うわっ、ほんとに来た!」
思わず声が出てしまった私に、私の隣の男性乗客が笑いかける。年の頃は50か。左薬指に指輪。ワイドショーに出て来る“所なんとか(ジョージじゃなくて、太郎?確か芸能リポーター)”さんに似ている。
先輩ス:「話しをする余地がないので降ろして下さい。」
男:「私一人だからしゃべれないでしょー。隣の人がしゃべってたらおかしいでしょー。私がしゃべれないでしょー、15時間も。おかしいでしょー。」(最後は泣き声になっている。そして急に普通の声になって)「私悪くないんです。暴力ふるってないし。」
若手警官:「申し訳ございません。移動して下さい。」
いつの間にかその場にいた別の外国人客室乗務員が、先輩スに男の氏名を英語で質問する。質問に答える先輩ス。「アキ◯◯・ハセガワ(◯◯の部分はよく聞こえなかった)」そして「うちの旦那を同じ名前だわ」つぶやき、ハハっと笑う。若ス、やはり笑顔で男の手荷物をまとめる。
今度は刑事(デカ)登場。って、本当にデカかどうかは分からないのだけど、一目でこの人、絶対にデカ、と思わせる「何か」がある。あの、テレビドラマに出て来る取調室にいる刑事だ。「殺ったのはお前だな!」とバンと机をたたくあの人。本当にこんな人が実在するんだ。しかもその人が私のすぐそばにいる!萩原、感動。(ちなみに服装はジャケットにノーネクタイ。クールビズである。)
刑事:「あなたの一方的な言い分を聞いてあげますから。」
男:「あなたの部下が訳の分かんないこと話してたら、あなた、叱るでしょ?」
刑事:「お話しを注意するだけならいいの。でもそれ以上やっちゃだめ。つば吐いたでしょ。」
男:「つばに見せかけた水。」
他の乗客:「飛行機遅れてるんだよ!そいつに弁償させろ!」
「いい加減にして下さい!」
「降りろ、降りろ、降りろ」(シュプレヒコール)
私の隣の“所”さんが突然、「ところで先程から何を書いているんですか?」と私の手元を覗き込む。「え、この会話です。こんなこと、人生でそうそう起こることではないので。」手短に答え、速記メモに専念する萩原。
他の乗客:「逮捕してその男を引きずり降ろして!!!」(女性の金切り声)
ベテラン警官:(落ち着き払って)「被害届がないと降ろせないんです」
・・・・・・・シーンと静まりかえる機内・・・・・・・
隣の“所”さんが小声で私に話しかける。「『民事不介入』ってやつですな。」「ミンジフカイニュウ・・・」おうむ返しする私は、萩原“官房長官”。
男:(勝ち誇ったように)「警察はダメだねー。マニュアル通りにしか動けないからな。マニュアルー。バカだねー。」
刑事:「バカとはなんだ!あなたが降りればいいんだ!」
ベテラン警官:「話しをしっかり聞きますから」
刑事:「常識ないんじゃないの?大人なんだからさ、分かるでしょ!」
他のの乗客:「誰も、警察が不法逮捕したなんて思わないから。大丈夫!」
「連れてけよー」「公務執行妨害ー」
そして事態は急変する。突如、デカが男の身体をがっとつかむ。
刑事:「あんまり警察をバカにすんじゃねーよ!!!このやろう!!!」(やはりドラマと同じ口調。)
本当に一瞬のことだった。男が連行されていく。すごい早業。ドラマで見た、あの、現行犯逮捕の瞬間。やはりデカだ。正真正銘の。機内から拍手が起こる。
そして全てが終わったと思った瞬間、最後に残ったベテラン警官が私たち乗客に向かってこう言った。
ベテラン警官:「どうもお騒がせ致しました!」(敬礼!)
ここにも正真正銘の警官が一人。真っ白になっているその頭が、深々と下げらる。拍手さらに大きくなる。ベテラン警官の姿が小さくなり消えて行く。
ー完ー